2019年5月の健康便り —メンタル—

不安への対処とセルフケア

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 「あの…、心理相談を予約した山本詩織ですけど、ここでいいですか」 
 相談室の入り口に立っていたのは、健康管理センターのモモセ看護師から連絡があった1年生の女子学生でした。「お待ちしていました。こちらにどうぞ」とキムラさんは笑顔で迎え入れると、詩織さんの気持ちを解きほぐすようにゆっくりと最近の様子を聴きはじめました。

 「入学してからずっと寝つきが悪くて、早く寝ようと思ってベッドに入っても眠れないんです。初めての1人暮らしだから、全部自分ひとりでやらなくちゃいけないし、大学でも履修届とか間違えちゃいけないと思うと提出するだけで緊張するし。親しい友達もまだいません。1日終わるとぐったりしているのに、なかなか眠れないんです。寝る前にパソコンやスマホも見てないし、私っておかしいのかな・・・、って思い始めると、ますます眠れなくなってしまうんです」とため息をつきました。
 新しい環境や人間関係の中に入って、精神的に大きな不安を抱えている詩織さんの気持ちがキムラさんには伝わってきました。「初めての1人暮らしで、不安なことや困ったことも多かったでしょうね。そのうえ、眠れない日が続いていたら心配になるのは当然だと思いますよ。ひとりでつらかったね」というキムラさんの言葉に、思わず泣き出してしまった詩織さん。

 入学や進級などに伴う環境の変化や人間関係の広がりは、ワクワクするような楽しみもありますが、その反面、居心地の悪さや心配、不安といったネガティブな感情も湧き上がってくるものです。ネガティブな感情をもつことは、決して悪いことではありません。心配や不安があるからこそ、人は注意深く、慎重になります。まわりをよく観察して、その場に適した行動や発言をしようとします。相手との距離をはかりながら、お互いを理解しあうために必要なプロセスでもあるのです。ただ、ネガティブな感情が強くなりすぎると、詩織さんのように睡眠のリズムが乱れたり、心のバランスを崩してしまったりすることがあります。

 涙が止まるのを待って、「詩織さんがホッとしたり、気持ちが楽になったりする時って、どんな時ですか?」キムラさんは少し視点を変えた質問をしました。しばらく考え込んだ詩織さんは「泳いでいる時かな…、高校まで水泳部だったんです。大学に入ってからは全然泳いでいませんけど」と答えました。
 「水泳、いいですね。思いっきり体を動かしたら、気分も変わるし、すっきりするんじゃないかなぁ。自分の気持ちや体を楽にすることを“セルフケア”っていうの。詩織さんにとってのセルフケアは、水泳かもしれないよ。眠れないことを気にするよりも、まずは自分が好きなことやリラックスできることを試してみたらどうでしょう?」というキムラさんの助言に、詩織さんの表情がパッと明るくなりました。「そうですね、近くにプールがあるか調べてみます。ありがとうございました!」来た時とは別人のような詩織さんを見送るキムラさんでした。