2020年8月の健康便り —メンタル—

生き方の違い~勝ち負けって何?

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 「今日は愚痴を聞いてもらいたくて来ました! そういうのもアリですか?」相談室に入るなり、ハキハキとした口調で話すのは2年生の後藤なつみさん。髪型も服装も今どきのおしゃれな印象の女性です。大学入学と同時に地方の実家を離れて一人暮らしをしています。
 「もちろん、愚痴でもなんでもどうぞ」と、心理カウンセラーのキムラさんはニコニコと微笑んで、後藤さんに椅子をすすめました。

 「私、地元がすっごい田舎なんですけど、この前、久々に地元の友達、高校の時の子たちとLINEのグループで話してて、みんなの言ってること意味わかんないって思ったんですよねー。なんか、みんな高卒でもう働いてて。自分でお金稼いで生活してるし。もう結婚してる人もいて。それが当たり前、って感じで。『なつみ、まだ学生なのー?』って言われて、なんか馬鹿にされた気がした」

 キムラさんは、後藤さんの若者らしい話し方の中に、地方のなまりが少し混ざっていることに気づきながら、彼女の感じている思いに耳を傾けていきました。
 「はぁ? 何言ってんの、みんな。大学で勉強しなくてどうすんの? って思った。大学行かないと、いい会社に入れないじゃん。高卒の人生ってどうなの、って思う。正直、負け組だなって。私、負け組になりたくないから、今まで、受験頑張ったし、大学の勉強も大変だけど何とか単位とってる。いいところに就職するのが勝ちだなと思ってる。」

 後藤さんは、「負け組」という言葉を使う時、ものすごく汚いものを見るような、不快そうな表情をしました。きっと、この「勝ち負け」の世界に、後藤さんの心の中にある“大事な何か”が隠されているんじゃないだろうか…。
 キムラさんは言葉を挟みました。「あなたにとって、勝ち負けがとっても重要なことのように感じます。勝つ、負ける、ってどういうことなんだろう?」後藤さんは少しの間、一点を見つめ、沈黙していました。そして、ふと寂しげな表情になりました。「私、誰にもほめてもらえないんです。どんなに勉強を頑張っても、いい大学に入っても、親からほめてもらえなかった。勝たないといけないんです。いい会社に入って、勝ち組にならないと」どうやら、後藤さんは厳しい両親に育てられ、自分らしさに自信が持てずに生きてきたようです。不安を抱えながらも、気丈にふるまい、必死に戦ってきた彼女の姿が見えてきました。「いつも一人で戦ってきたんじゃないかな。よかったら、またここに来て、感じていること話しませんか。ここにいる間は戦うのをやめて、一休みしてもいいんじゃないかな」

 「一休み…。そんなことをしたら、勝てない気がする」後藤さんは「一休み」という言葉に抵抗があるようでした。しかし、口を少し尖らせながらも、「でも…、はい、また来ます」と言いました。キムラさんは、後藤さんが自分らしい、無理のない生き方を見つけるまで、お手伝いしていきたいな、と思いました。