2014年6月のコラム

生活習慣の乱れと健康傷害リスクの上昇

大阪大学名誉教授
(前大阪大学保健センター教授) 
杉田 義郎

杉田先生の略歴はこちらより

 私たちは概ね24時間、7日、1ヵ月、1年の周期で生活を送っています。とくに1日24時間のサイクルは最も基本的なものです。社会規則的には午前0時がその日の始まりではありますが体感的には朝に眠りから覚めた時が一日の始まりといったほうが合っています。電気による照明が普及しない時代、20世紀半ば以前では私たちの生活は日の出とともに始まり、日没とともに終わるサイクルをずっとくり返してきましたが、それが人工照明によって大きく変化しました。24時間社会、高度情報化時代の現代はさらにその生活サイクルが大きく乱れる事態になっています。人類誕生が約700万年前、誕生から現在までの期間を1日とするとこの100年足らずの激動期間は午後11時59分59秒からスタートする現象なのです。

 ノート型パソコンやスマートホンなどを通じて、刻々と更新される情報を常に「監視」する作業に追われる日常生活はさらに本来の生活サイクルを乱すもので、ネット上での他人の発言や評価が不安になってくると心身の健康状態に深刻な悪影響を与えるリスクが高まります。そのような不健康な状態に陥らないようにするためには生活習慣(食事、睡眠・休養、身体運動、ストレス対処など)に対して適切に配慮することが非常に重要になります。

 個々の生活習慣と心身の健康との関係については次回以降に順に解説をしようと思いますが、今回は生活習慣の乱れと健康リスクの上昇についての概略をお話ししたいと思います。口から胃、十二指腸、小腸、大腸から肛門に至るまでの消化管は体内にあるようですが、お分かりのように外部環境と直接つながるものです。しかし、口や胃は高い酸素濃度の環境ですが、小腸では酸素は低濃度になり、大腸ではさらに低くなります。そこでは、酸素を嫌う嫌気性細菌が繁殖していて、細菌のお花畑(腸内細菌叢)を形成します。私たちの腸は腸内細菌と持ちつ持たれつの関係=共生関係を見事に保っていて、その関係があってこそ消化・吸収がスムーズになされ、免疫機能が安定し、病原菌の繁殖を抑えられ、健康な腸内環境が保てて、全身の健康状態が維持できることが分かってきました。善玉菌の代表格である乳酸菌やビフィズス菌は腸の細胞のエネルギーとなる短鎖脂肪酸やアミノ酸さらにビタミンB群(脳の神経伝達物質を作るのに必須の補酵素)などを生成・供給してくれとともに、ミネラルの吸収を助けてくれます。まさに頼もしいサポーターです。しかし、一方、生活習慣が乱れて過剰なストレスがかかると腸内細菌バランスが悪くなり、そうなると前述した共生関係が崩れ、心身の健康状態は悪化する方向に傾くのです。良い腸内細菌を育成する習慣がまさに良好な生活習慣に他なりません。

 皆さんも生活習慣を振り返ってみて、健康サポーターを増やすように努めましょう。

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略歴

1973年 7月
大阪大学医学部附属病院神経科精神科 医員(研修医)
1976年 7月
大阪大学医学部附属病院神経科精神科 医員
1978年 11月
大阪大学医学部精神医学教室 助手
1996年 11月
大阪大学健康体育部 教授
1997年 9月
大阪大学健康体育部保健センター長(兼任)
2004年 4月
大阪大学保健センター長(併任)
2005年 4月
大阪大学保健センター 教授
2006年 4月
大阪大学医学部附属病院睡眠医療センター 副センター長(兼任)
2013年 4月
大阪大学 名誉教授
2013年 5月
大阪大学学生支援ステーション特任教授(非常勤)
2013年 6月
大阪大学キャンパスライフ支援センター特任教授(非常勤)
2013年 10月
学校法人関西学院保健館 学校医・産業医(嘱託常勤)
2014年 4月
大阪大学キャンパスライフ支援センター招聘教授(非常勤)

資格

1973年 6月
医師免許証取得(第219558号)
1988年 4月
精神保健指定医(第7831号)
1955年 5月
医学博士(大阪大学)
2004年 1月
日本医師会認定産業医

所属学会

日本睡眠学会、日本スポーツ精神医学会(評議員)、日本時間生物学会、日本臨床神経生理学会、日本精神神経学会、日本脂質栄養学会、全国大学メンタルヘルス学会

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