2021年3月のコラム
大阪大学名誉教授
(前大阪大学保健センター教授)
杉田 義郎
前回のコラムから約1年がたちました。この間に新型コロナウイルス感染症が世界的流行(パンデミック)となり、現時点でもまだ出口が見えない状況が続いています。
大学では、第1波の緊急事態宣言下で、学生諸君は大学内に入ることさえ禁止され、全てオンライン授業になり、サークル活動・クラブ活動は全面停止という事態が生じました。そして、現在、大学によって多少の違いはあれ、きっちりとした感染予防対策を実施する中で、対面授業が一部実施されるようになりました。また、サークルやクラブ活動がコンスタントにできるようになっています。しかし、大学間や地域内外の交流にはまだまだ制限が残っている状況です。
ここにきて海外では開発された新型コロナウイルスのワクチンがどんどん接種されるようになり、日本ではまず優先的に医療関係者に対してワクチン接種が開始されたところです。この次は高齢者に接種される予定であり、若者を含めて広くの国民にワクチンが接種されるのは、早く見積もっても今年の後半になることでしょう。また、新型コロナウイルス感染症の動向を複雑にしているのがウイルス変異株の流行です。現時点で、首都圏を初めとして大都市での変異株への新規感染者数およびその比率が確実に上昇していることを見ると、第4波の到来も否定できない状況にあります。
さて、学生諸君、とりわけ4月に入学を迎える学生諸君は、コロナ禍での大学生活に関して大きな戸惑いがあるのではないかと思います。しかし、1年間の経験から昨年の同時期と比べると安心できる点が幾つかあることは救いといえます。具体的には、大学の中において、マスク着用や密集を避け、換気などに十分に注意して活動すれば集団感染はほとんど生じていないということです。運動クラブでの集団感染の事例が報道されましたが、それらは寮生活を通じて感染したといわれています。特に屋外スポーツの場合、接触するラグビーやサッカーなどでも練習中に感染するリスクは非常に低いと考えられます。主に室内で活動する文化系サークルもマスク着用と室内の換気に注意することや、天気の良い日には思い切って屋外に出て、人との距離をとって(約2メートル)活動するならば、マスクを着用しなくても感染リスクを大きく下げることが可能です。各サークルやクラブにおいては、それぞれの活動スタイルに合わせた感染予防ガイドラインを作成することを勧めます。そして、新入生を安全に、安心して迎え入れるようにしてあげてください。
新型コロナウイルス感染症の特徴として、感染リスクおよび重症化リスクは、低年齢者ほど低いことが分かっています。大学生の年齢になると感染リスクおよび重症化リスクは10歳以下と比べると上昇しますが、ほとんどは無症状・軽症です。しかし、軽症〜中等症の事例がないわけではなく、また、軽症でも、PCR検査で陰性と判定された後に何ヶ月も後遺症(けだるさ・息苦しさ・味覚や嗅覚障害など)に悩まされる人が少なからずいることが分かってきました。この長引く後遺症はインフルエンザウイルス感染症とは明らかに違った特徴をもっています。これらの後遺症が統計上は非常に少ないとはいえ、その当事者になってはたまったものではありません。
つまり、大学生であっても新型コロナウイルス感染を避けるように適切に対策することが賢明です。このウイルスは主に「飛沫感染」することがわかっているので、体内(気道内)にウイルスを大量に吸い込まないようにすることが最大の対策です。部屋の換気とマスクの適切な着用をすれば、空気中にたとえウイルスがあっても吸い込む量をぐっと少なくできるので、体内でのウイルス増殖を防げて感染には至らない、つまり感染予防ができると考えられます。
次回(下)では、個人レベルでの感染防御に役立つ健康情報を提供したいと思います。
日本睡眠学会、日本スポーツ精神医学会(評議員)、日本時間生物学会、日本臨床神経生理学会、日本精神神経学会、日本脂質栄養学会、全国大学メンタルヘルス学会