2013年4月の健康便り —メンタル—

理想と現実のギャップ

 春真っ盛り。満開の桜に膨らむ期待を重ね合わせて、意気揚々と新入生が入学してきます。しかし実際の大学生活にもまれるうち、そんな期待は花と散るのもまた世の常。まもなく芽吹く新緑を待ちきれず、いま一度花を咲かせようと季節をさかのぼっても、はかない夢に終わりかねません。

 Aさんは大学1年生。高校のときから政治に興味を持ち、生徒会にも積極的に参加してきました。大学では政治学を専攻し、弁論サークルに入って仲間たちと議論を深めたいと思っていました。しかし、Aさんが入学した政治経済学科はみんな単位のことばかり考えて、定期試験の過去問題や、一部の優秀な学生のノートが出回っていました。先生の講義は面白いものもありましたが、学生が居眠りしても先生は叱りませんでした。期待した弁論サークルも、新歓コンパ、新歓合宿とイベント目白押しで、飲み会の誘いも絶えません。真面目な政治談議はいつやっているのかといぶかしく思ったAさんは次第にサークルから足が遠のきました。志の低い学生たちに失望したAさんはもっとレベルの高い大学に入りなおそうと決めて、あまり大学には行かなくなっていきました。

 出席率が下がっているAさんを心配した教務主任は、Aさんに学生相談室を勧めました。Aさんはいい機会だと思って、この大学がいかに堕落しているかについて、たまっていた不満をカウンセラーにぶちまけました。そしてもしカウンセラーが大学側を弁護したら、得意の弁論術で言い負かしてやろうと待ち構えていました。カウンセラーはAさんの批判をそのまま聴き入れたうえで、いくつか質問をしました。「面白い講義をする先生とはどんな議論をしたか」「優秀な学生は政治談議が好きではなかったのか」「サークルの飲み会ではどんな話が盛り上がるのか」などなど。Aさんはうまく答えられません。確かめていないからです。考えていくうちにAさんは、自分から議論の場所を切り開いては来なかったことに気づきました。最初からみんなが議論好きであることを期待していたのです。それに本当のところ、優秀な学生や先生と話したら自分が言い負かされるんじゃないかと尻込みしていたのです。Aさんは、高校のとき生徒会に入れたのも、もともと生徒会活動が活発な学校で、みんなが自分を推薦してくれたからだということを思い出しました。

 ある日、学生相談室に現れたAさんは決まり悪そうに言いました。「サークルの飲み会に行ってみたら、先輩から完全に言い負かされた。悔しいから次の飲み会はもっと理論武装していきます」。

 花は散っても木は枯れません。散った花びらを後生大事に抱えるよりも、新芽を育てて新たな花を咲かせましょう。

 ※上記事例は、「学生生活無料健康相談ダイヤル」の複数の相談例に基づいて創作した架空の事例です。