2013年6月の健康便り —メンタル—

ポジティブすぎるのも考えもの

 物事をポジティブに考えられる人は心の健康度が高いような気がします。確かにクヨクヨしているより、「さあ次だ」と考える方が生産的な感じがします。でも、なんでもそんなにサクサク進めてよいものでしょうか。

 3年生のCさんはテニスサークルの幹事長。面白いイベントを次々と思いつく発想力と、それをすぐに実行に移す行動力で、みんなの信頼を得ています。また、D子さんとはサークル公認のカップルです。頼られるリーダーであり、彼女もいる順風満帆なキャンパス・ライフを送っています。ところが最近、CさんとD子さんが別れたことがわかりました。二人の親友がD子さんから聞いたところによると、そろそろ就職活動のことが心配だと言うD子さんに、Cさんは「大丈夫、心配したって始まらないよ」と言って取り合わなかったそうです。「いつもそうだった。私が泣いていたって、『気晴らししよう!』って遊びに行くだけ…」とD子さん。

 Cさんはというと、別れた後もイベントを企画し、楽しいサークルを追求し続けています。むしろD子さんがいなくなって、肩の荷が下りたとでもいうかのように。見兼ねた友達が「無理するな、本当はつらいんだろ」と声をかけても、「大丈夫、つらい時こそ楽しいことを考えなきゃ!おれには幹事長の責任があるしね」とあくまで前向きなCさん。逆にいつまでも落ち込んでいるD子さんを「上級生としてしっかりしなきゃ」と注意します。

 さて、学生生活無料健康相談テレホンに電話をかけてきたのはD子さんの方でした。「彼はあんなに前向きなのに、私は落ち込んだまま。私は心が弱いんでしょうか」と電話口で涙をこぼしました。カウンセラーは、「Cさんは悲しみに耐えられないから楽しい気分に浸っているのかも。悲しいことを悲しめるのは、心の強さでもある」と説明しました。D子さんは薄々感じていた疑問に答えをもらった感じがして、「彼はひどいですよね」とやっと自分の気持ちが言えました。それと同時に、Cさんに遊びに連れて行ってもらって元気が出たこともあったと思い出し、あらためてCさんと別れた悲しみも感じました。

 D子さんは次第に落ち着きを取り戻し、Cさんの企画したイベントにも参加できるようになりました。妙に気を遣うCさんに、D子さんは「Cさんも内心別れたこと気にしてるのね」と思いながら、「いつも楽しいイベントありがとう」と大人の対応。そんなとき、Cさんは突然「就職活動に専念する」と言って幹事長を後輩に譲り、サークルには来なくなってしまいました。Cさんだって本当は就職活動のことが心配だったのです。

 なんでもポジティブに考えることは、大事なことを考えないということでもあります。それは経験から学ぶという大切な機会を犠牲にしているのかもしれません。

 ※上記事例は、「学生生活無料健康相談テレホン」の複数の相談例に基づいて創作した架空の事例です。