2013年8月の健康便り —メンタル—

大学の授業は甘くない?

 「大学全入時代」といわれます。希望する進路に進める機会が増えることは、受験生にとってはよい面もあるかもしれません。しかし、入試形態の多様化などにより、学力による選抜を十分に受けずに大学に入学するケースも増えているようです。

 Fさんもそのような学生の一人です。高校での学業成績はクラスの真ん中に届くかどうかというところでした。しかし、礼儀正しさや地元商店街のゴミ拾いなどのボランティア活動を評価されて、地元の私立大学の推薦入試に合格しました。「自分の成績では大学は無理かな」と、なかば諦めていたFさんは大変喜びました。

 ところが、入学後まもなく、Fさんは大学の講義が難しくてついていけないと感じるようになりました。理論や概念の複雑さということ以前に、先生の使う言葉が難しすぎるのです。高校のときは、隣の席のクラスメイトに聞けば済むこともありましたし、職員室に行けば先生が丁寧に教えてくれました。それが大学では、隣に知らない人が座っていることが多いですし、先生も非常勤のため後で聞きに行くこともできません。

 もともと真面目なFさんは、努力してもできない自分に落ち込み、大学に行くのが怖くなって、遊ぶこともなくなりました。心配した家族が心療内科に連れて行くと、経緯を聞いた医師は、「Fさんは力を発揮できないところに行ってしまったかもしれないね。何がFさんに向いているか検査をして調べてみない?」と勧めました。Fさんが受けたのはWAIS-Ⅲという知能検査です。高校生くらいから高齢者までの知的機能を詳しく測ることができます。その結果、FさんのIQ(知能指数)は「平均の下」で、とくに言葉を使いこなしたり、一度にたくさんのことを覚えたりすることが苦手だということがわかりました。日常会話は問題ありませんが、聞き慣れない言葉や抽象的な話が出てくると、もうお手上げだったのです。一方、周りをよく見てテキパキ動くことはできるということもわかりました。

 Fさんはこの結果について、医師とよく話し合い、悩んだ末、大学は辞めることに決めました。大学生でなくなるのはつらいことでしたが、「やはり自分にはちょっと背伸びだったかな」と思ったのです。それより、自分の真面目さを活かして、大好きな地元商店街のために働きたいと思うようになりました。商店街でも評判のよかったFさんです。「うちで働かないか」と言ってくれるお店がすぐに現れました。今ではFさんに笑顔が戻りました。

 チャンスが広がったとはいえ、大学は学問をするところです。すべての人が学問に向いているわけではありませんし、学問以外の道もたくさんあります。どんな道なら自分に向いているのかと悩んでいる学生に対するサポート体制の確立も望まれるところです。なにより、学生自身が自分の得意なことや苦手なことに気づかないまま、自信をなくしてしまうことがないよう願っています。

 ※上記事例は、「学生生活無料健康相談テレホン」の複数の相談例に基づいて創作した架空の事例です。