2013年9月の健康便り —メンタル—

今日も探し物、忘れ物

 よく物をなくす。でも、思いもよらないところからひょいと出てくる。チャキチャキ動くことができるのだけど、終わった後の片づけが苦手。そんなことはありませんか。もしかすると、小さい頃から同じようなことで怒られたりしてきたかもしれません。でも一生懸命やっているんです。

 Gさんは大学入学後から一人暮らしを始めて1年半になります。もう大学生活にも一人暮らしにもすっかり慣れました。しかし、今でも週に1回は大学に行く前に財布が見つからなくて焦ります。どうにも見つからなくて、「今日は友達に借りよう」とあきらめて家を出ようとすると、玄関の下駄箱に財布が置いてあったりします。昨晩コンビニから帰ってきたとき、靴を脱ぐためにいったんそこに置いたのでした。日々そんなことの繰り返しです。

 夏休みに実家へ帰ったとき、Gさんは何気なくそのことをお母さんに話しました。するとお母さんは「変わらないわねぇ」と笑いました。小学生の頃からGさんは忘れ物の王様でした。三角定規にコンパス、体操着に水着と数え上げれば切りがありません。水泳などはGさんも楽しみにしているのに、元気よく出かけたGさんの部屋で、お母さんは昨日準備していた水着セットを発見するのでした。学校の先生は、Gさんが先生を困らせるためにわざと忘れ物をしていると思って、しばしば叱りつけました。Gさんはそのことで一時期、「自分は悪い人間なのか」と落ち込んだり、逆にわかってくれない先生に反抗的になったりしました。しかし、お母さんはGさんがわざと忘れているわけではないことをわかっていました。それで、Gさんを叱るのではなく、忘れそうな物は一つの袋にまとめて、玄関にGさんの靴と一緒に置いておいてあげたものでした。

 「そんな気遣いがあったとは…」と今更ながら偉大な母に感謝したGさん。早速、ふだん使うものは全部一つのバッグに詰めて、いつもそれを持ち歩くようにしてみました。荷物が重くなるのが難点で、バッグの中では相変わらず財布は行方不明になりがちですが、家中を探し回ることは少なくなりました。

 気をつけているつもりなのに、何か忘れてしまったり、なくしてしまったりする。これは、意思の強さの問題ではなく、「注意」の問題かもしれません。何かに意識を向け続けるのが元々苦手なのです。Gさんも、靴を脱ぐことに「注意」が向いた時点で、財布を置いたことから「注意」が離れてしまうのでしょう。こうした不注意に叱責や懲罰で対処することは問題をこじらせ、さらに本人の自尊心を傷つけます。元々持っている特徴であると理解すること、その特徴に適した対応を考えることが、本人にとっても周囲にとっても大切なことです。

 ※上記事例は、「学生生活無料健康相談テレホン」の複数の相談例に基づいて創作した架空の事例です。