健康便り

2015年9月の健康便り —メンタル—

私もあなたも大切に

 漫画研究会に打ち込んでいる次郎さん。画力向上のための参考資料として、人気絵師のイラスト集を買い込もうと、飲食店でアルバイトを始めることにしました。実は次郎さん、これまで働いたことがありません。とにかくみんなに迷惑をかけないようにしようと、頼まれた仕事は決して断らずに頑張り続けました。

 次郎さんのお父さんは、いつも「与えられた仕事は断ってはいかん! 最後まで責任をもってやり切れ!」と言っていました。確かに頼まれた仕事を断らずにやると、店長やみんなは喜んでくれます。“働くというのは、こういうことなんだろうな”次郎さんはそんなふうに思いながらバイトに励んでいました。しかし、断らないでいるとシフトの日数は増えていき、ついには絵を描く時間が無くなるほど忙しくなってしまいました。

「仕事は断りたくない…。でもシフトがこんなに増えてしまったら自分の時間が無くなっちゃうよ…」

 これは、社会に出れば誰しもがぶつかるであろう葛藤のひとつですね。では、どこに無理があるのか立ち止まって考えてみることにしましょう。

 当たり前の話ですが、人が他人と生きていくためにはルールが必要です。なぜかというと、ルールがないとお互いに気持ちよく生活ができないからです。多くのルールは習慣化され、社会常識のようになっています。私たちはそれを無意識のうちに受け入れていますが、振り返って考えると、社会常識の根底には「お互いに気持ちよく生活したい」という生きるための関心が潜んでいるわけですね。

 では、次郎さんが大事にしている「与えられた仕事は断らない」という態度はどうでしょうか。社会的責任という視点からであれば、与えられた仕事は断らないほうが良いと言えるでしょう。波風は立たないですし、店長も頭を悩まさずに済みます。相手を立てることを良しとする日本文化の中では、こうした態度が常識とされている傾向がありそうです。しかし、断らずに仕事をしていれば、次郎さんの負担が増えてしまいます。「絵がうまくなりたい!」という、そもそもの目標を抑え込んでしまうことにもなります。自分を抑え込むわけですからストレスも溜まるでしょう。このままでは「なんで僕ばっかり!」と、逆ギレしてしまうかもしれません。

 こう考えると、「仕事は断らない」という態度は、自分を抑え込んで相手を立て過ぎてしまう、偏った態度だということがわかります。これだと、「お互いに気持ちよく生活したい」という生きるための関心から離れてしまいますね。

 さて、今までの態度をよく考えなおしてみた次郎さん。店長に面談の機会を作ってもらい、勇気を出して「サークルも大切にしたいからシフトの日数を減らしてもらえないだろうか」と交渉してみました。どうやら希望通りとはいかなかったようですが、少し日数を減らしてくれることとなりました。自分も相手も尊重しながら生活をすることは大変なことです。社会に出て仕事をするとなればなおさらです。今回はちょっと忙しくなりすぎたようだけど、よい経験ができたみたいですね。さて、バイト代が出たら、さっそくイラスト集を買いに行こう!