2016年3月の健康便り —メンタル—

家族について

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 今でこそ元気に暮らしていますが、次郎さんは小さいころに心臓の手術をしたことがあります。それからというもの、母親は過剰に次郎さんのことを心配するようになりました。友達とどこかに出かけようとすると、母親はいつも、「次郎、大丈夫なの? 無理はしないでね」など声をかけてきます。優しい母親ではありますが、あまりにも愛情を注いでくるのでウザッたくなってしまい、高校のころはほとんど話もしませんでした。

 一方、父親は熱血漢な人で、なにかというと男の生き方の話をしてきます。まるで次郎さんの生き方を決めつけてくるように感じられて、これも不愉快なことでした。それでも一人暮らしを始めて家族との距離を置けるようになってくると、なんとなく両親と穏やかな気持ちで話せるようになってきました。先日、バイト先での苦労話や、女の子と映画に行った話などをしたら、両親は驚きながらも次郎さんの成長を認めてくれたようでした。

 そんな中、次郎さんの弟がアパートに遊びに来ました。どうやら父親とケンカをして、行先も言わずに家を出てきてしまったようです。「もう学校なんて辞めてやる!」なんてことも言いだして、穏やかではありません。心配な状況ではありますが、次郎さんは弟のそんな姿を見ていると、家族と同居していたころの自分を見ているようで、ちょっとほほえましく感じたのでした。

 家族関係というのは面白いものです。今は弟が家族の中で問題児になっているようですが、そこには次郎さんが家を出たことや、父親の熱血漢な性格、母親の母性あふれる優しさなど、それぞれの行動や態度が影響しあっています。人間には、自分の体を安定した状態に保とうとする働きがあります。熱が出たら汗をかいて体温を下げようとしますし、寒すぎたら体を震わせて体温を上げようとします。また、例えば利き手を骨折してしまったら、不便さを補うために反対の手を活用したり、利き手をあまり使用しなくても生活ができるように、自分の生活環境を整えたりすることでしょう。

 こんなふうに家族間にも、どこかに変化があるとそれに影響されて各自の行動や役割が変わってしまうような仕組みがあるようです。次郎さんも弟も、いずれ自分の生き方を見出していくでしょうから、父親もいつまでも人生論を語る熱血漢ではいられないでしょう。次郎さん兄弟が巣立ってしまったら、母親も優しさの注ぎ先を考えなければなりません。そこには価値観や生き方の変化が求められますし、そうした変化が家族の成長につながっていくことだと思います。

 「僕が一人暮らしを始めてから、弟はしんどい思いをしてきたのかな?」そう思った次郎さんは、少し実家に帰って両親の話し相手になってあげることにしました。家族関係は山あり谷ありです。一筋縄ではいかないのが難しいところですが、家族みんなで成長できるような関係性を築きたいものですね。