2016年7月の健康便り —メンタル—

思考と感情のメカニズム

イメージ

 次郎さんは2年生になって、専門分野のゼミに入りました。そのゼミには学生の他に、Kさんという助手の男性がいます。Kさんは初めてのゼミで緊張していた次郎さんに、受講票の書き方を分かりやすく教えてくれました。誰にでも親切で、教授の信頼も厚く、頼りになる兄貴的な存在です。夏休みのゼミ合宿の準備で、講義以外にもKさんと話す機会が多くなった次郎さんは、Kさんの「それ、いいね」と「ありがとう」という口癖に気がつきました。

 Kさんが他の人の言葉を否定することは、ほとんどありません。どんな意見もまずは受け止めて、「それ、いいね」と言ってくれます。そのうえで自分の意見を言ったり、別の考え方を話してくれたりします。年下の学生にも必ず「ありがとう」と丁寧にお礼を言ってくれるので、とても嬉しい気持ちになります。

 次郎さんは自分と相手の考えが違った時、「それって、おかしくない?」とすぐに思ってしまいます。相手の考えが理解できても、意地を張って意見を曲げないこともあり、「僕って、心が狭いよな…」と自己嫌悪に陥ることもしばしば。感謝の気持ちがあっても、てれくさくて「ありがとう」と素直に言えない時もあります。

 授業後、次郎さんがゼミ室に行くと、「どうして、そんなに優しいんですか?」「嫌いな人とか、嫌なことってあるんですか?」「落ち込んだとき、どうするんですか?」とKさんが女子学生達からの質問攻撃を受けている最中でした。Kさんは困りながらも、いつもと変わらない丁寧な言葉で、質問に答えてくれました。

 Kさんは浪人中に予備校の先生から、思考と感情のメカニズムについて、面白い話を聞いたそうです。「人はいつも何かを考えており、その考えていることが感情や気持ちというかたちで、自分に戻ってくる。今感じていることは、今この瞬間の自分の思考の結果であり、思考は常に感情を生み出すのだ」と。何もかもうまくいかず苦しんでいたKさんは、「肯定的な思考をすれば、肯定的な感情が生まれるのではないか」と考え、実験を始めました。

 相手の考えや意見を、まずは肯定的に受け止めてみると、確かに肯定的な気持ちになる。自分のことも否定したり責めたりせずに、「自分らしくて、いいじゃないか」と肯定的に考えると、ダメだと思っていたのに自信が持てるようになった。続けているうちに肯定的に考える癖がついてきたみたいで、いつも落ち着いた気持ちでいられるようになった。周りの人のことも大切に思えるようになって、感謝の気持ちが自然と湧いてくるようになった。もちろん今でも、嫌なことはたくさんあるけど、その感情を生みだしているメカニズムが自分の思考だと分かっているので、切りかえることができるようになった…。

 にわかに信じられない話ですが、Kさんが言うなら、その実験をやってみようと次郎さんは素直に思いました。そして、「それ、いいね」と「ありがとう」が僕の口癖になったら…、花子さんとの距離ももう少し近づくかもしれないな! と嬉しい気持ちになっていました。