2016年11月の健康便り —メンタル—

身近な死について

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 最近、次郎さんは元気がありません。実家で飼っていた犬のリクが死んでしまったからです。「16歳だったから、人間の歳だと80歳くらいなんだって。すごく長生きしたんだってさ」と弟の三郎の悔しそうな声が電話口から聞こえてきました。夏休みに帰省した時もずいぶん弱っていたので覚悟はしていましたが、こんなにショックを受けるとは次郎さん自身も思っていませんでした。電話を切った後も、しばらく涙が止まらず、スマートフォンに保存しているリクの画像を見ながら、自分でもびっくりするくらい泣き続けてしまいました。

 リクは弟の三郎が生まれた年に、父が友人からもらってきた雑種の犬でした。母は飼うことに大反対でしたが、まだ幼かった次郎さんが必死に頼んで許してもらいました。リクという名前も次郎さんがつけ、「三郎もリクも僕の弟だよ!」と小さな弟たちの面倒をよくみていたのです。犬の年齢は最初の1年で人間の15〜16歳ほどになってしまうので、あっという間に次郎さんを追い越してしまいましたが、いつも次郎さんに甘えてじゃれていたリク。そのリクがもういないなんて…、何日経っても気持ちが落ち込んだままでした。散歩している犬を見かけたり、“愛犬”という文字を目にしたりするだけで、すぐにリクのことを思い出してしまいます。「もっと可愛がってあげれば良かったなぁ…」と後悔ばかりが心に浮かんできました。

 「次郎さん、何かあったの?元気ないみたいね」と花子さんに学食で声をかけられた次郎さんは、我慢できずにリクを亡くした寂しさや悔しさを花子さんに話し始めました。次郎さんの話を聞き終えると「リクは次郎さんの大切な家族だったのね。家族を亡くしたら悲しくて落ち込むのは当然のことだよ。私も経験あるから、その気持ちはよく分かる」と花子さんは言いました。そして、大切な人やペットの死を乗り越えるためにはその出来事を十分に悲しみ、その寂しさや悔しい気持ちを吐き出すことが必要であり、泣いたり人に話したりすることは、恥ずかしいことではないと教えてくれました。「獣医さんが“しっかり悲しんで、きちんと後悔したら、きっと楽しかったことを思い出して、感謝の気持ちに変わっていきますよ”って言ってくれたの」という花子さんの言葉に、次郎さんはとても勇気づけられました。

 “死”は怖くて、残酷なものだと次郎さんは思っていました。今まではなるべく考えないようにしてきましたが、リクを亡くして、初めて“死”を身近に感じるようになりました。いろいろな気持ちが入り混じって、まだはっきりと整理できていませんが、“死”について考えることで、この悲しみを乗り越えてみようと決心した次郎さんでした。