2017年7月の健康便り —メンタル—

恋への不安

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 「あの、次郎さん、よかったら今週の花火大会見に行かない? 前に行きたいって言ってたでしょ?」
ゼミの授業が終わって、恥ずかしそうな表情で話しかけてきたのは同じゼミの美咲さんです。誰にでも分け隔てなく接する優しい美咲さんは、才色兼備な人気者です。

 「あ、いや、その、なんというか、その日は・・・」
人気者の美咲さんに誘われ、次郎さんはあまりにも驚いてしまったため、言葉がでないまま立ち尽くしてしまいました。煮え切らない次郎さんの返事に美咲さんの表情も次第にかげり、「返事はまた次のゼミの時に教えてね!!」そう言い残して帰ってしまいました。

 美咲さんが帰った後、川島君が呆れた顔で次郎さんに話しかけてきました。彼は次郎さんの親友で、次郎さんの出会ってきた中で、最もモテる男です。「おい、次郎。前に今週の土曜日は暇だって言ってたよね。どうして断ったの」
 「二人で花火大会って、どうしたら良いかわからないし、トークも下手でカッコ悪いって思われるよ…。嫌われるに決まってる。そもそも相手はあの美咲さんだよ?」
 「まあまあ、ちょっと落ち着いて。次郎の気持ちもわかるけど、どうして嫌われるって決めつけるのさ。それに、美咲さんがどんな気持ちで誘ったか本当に考えた?」

 川島君に言われて次郎さんは、自分のふがいない対応を振り返り、自分のことばかりに気を取られていたことに気が付きました。
 「確かに、僕は自分が嫌われたくないってことばかりに気持ちが向いていたよ。でもすごく不安なんだ。僕は実際に何もしていないのに、どうしてかな。川島君は不安にはならない?」
 「そりゃ不安になるよ。でも僕は、それよりも一緒にいたい相手のことを考えるよ。きっと、美咲さんも次郎と同じように不安な気持ちを抱えていたけど、次郎を誘いたいから声をかけたんじゃないかな」

 川島君にそう言われた次郎さんは、美咲さんの悲しそうな表情が頭に浮かびました。次郎さんは、一人で冷静になって、川島君に言われたことについて考えました。
 「確かに、誰だって人ときちんと向き合おうと思ったら不安な気持ちになるよね。拒否されたら嫌だな、とか。でもそこで、不安なまま終わってしまったら何も変わらないよね。明日のゼミで、美咲さんを改めて花火大会に誘ってみよう」

 翌日のゼミの授業が終わった後で、次郎さんから改めて美咲さんを花火大会に誘いました。
 花火大会の当日、次郎さんの隣を歩く美咲さんは、普段よりもいっそう美しく見えました。
 「相手がどう思うかじゃなくて、自分がどうしたいか。川島君はいいことを教えてくれたな。こうして美咲さんの隣を歩いているなんて夢みたいだ」
 「何か言った? 次郎さん」
 「いや、なんでもないよ」
 さすがにこの気持ちは、まだ言えそうにない次郎さんでした。頑張れ、次郎さん。