2017年12月の健康便り —メンタル—

失恋の痛手

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 「ごめんなさい。私、次郎さんとは行けない。ずっと感じていたけど、次郎さんは私のことを好きじゃないと思う。こうして二人で会うのも、これで最後にしましょう」

 あまりにも予想外な言葉を美咲さんが口にしたので、次郎さんは戸惑い、言葉を失ってしまいました。
 夏の花火大会から美咲さんと次郎さんは、授業を一緒に受け、何度かデートを重ねてきました。二人の時はいつも楽しそうにしていた美咲さん。当然クリスマスのデートにも来てくれるものだと思って誘ったのです。

 どうして美咲さんに振られてしまったのか。次郎さんは理由がわかりませんでした。そして、今回のことは、なぜか花子さんに相談してはいけない気がして、しばらくの間、次郎さんは一人で悶々とすることしかできませんでした。

 美咲さんに振られて数日後、どうしても気を紛らわすことのできない次郎さんは、親友の川島君がバイトする居酒屋で、一人慣れないお酒を飲んでいました。「どうして振られたんだろう。嫌われないように注意していたのに」と次郎さんは同じことばかり考えてしまいます。次郎さんの何がいけなかったのでしょう。

 青年期に直面する心理学的な課題の一つに「親密性の獲得」があります。これは、「自分を過度に抑えたり、相手を支配したりすることなく、自分も相手も尊重した人間関係を築けるようになる」という目標です。こうした関係を築くことができないと「孤独」を感じてしまうとされています。

 次郎さんは、憧れの美咲さんと一緒にいられる状況を維持しようと、自分を抑えて美咲さんのことを優先して付き合っていました。美咲さんを大切に思えば思うほど、次郎さんと同じように親密な関係を築こうとしていた美咲さんに「孤独」を感じさせてしまい、今回の別れにつながったのかもしれません。

 「次郎さん、珍しいね、そんなにお酒を飲むなんて」
 川島君から次郎さんがやけ酒を飲んでいることを聞いた花子さんが、次郎さんの様子を見に居酒屋へやって来ました。
 次郎さんは花子さんに今の気持ちを、素直に打ち明けることができました。いつも情けない自分を認めてくれる花子さんといると、次郎さんも安心して話すことができるのです。
 「そうやって気遣いができる次郎さんの優しいところも私は好きだけどな」と話を聞いた花子さんが、そう言って励ましてくれました。
 花子さんの声が少し震え、顔がほんのり赤かった理由は、まだわからない次郎さんでした。