2018年1月の健康便り —メンタル—

一歩踏み出す勇気

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 次郎さんと同い年のいとこで、アメリカ留学中の謙さんが休みを利用して日本に帰ってきました。謙さんに誘われて留学生や大学生が企業と交流するパーティーに連れて来られた次郎さん。他の参加者が談笑している部屋の片隅で、一人ぽつんと座っています。「明らかに場違いなところに来てしまった…」と縮こまる次郎さんを横目に、謙さんは参加者と写真を撮ったり連絡先を交換したりしています。
 さすがの謙さんも気まずそうな次郎さんが気になったようで、話しかけてきました。

 「次郎、どうしたの? 皆と一緒に話そうよ」
「そんなの無理だよ。こんなパーティー初めてだし。謙さんも前はこういうの嫌いだったのに」
「人生は一度きりだよ。今日を逃したら会えない人もいるし、ここで人脈を作ろうよ」
 次郎さんは、謙さんの話を聞くうちに、大学で「意識高い系」と呼ばれ、陰で笑われている人たちのことを思い出しました。彼らが謙さんと同じようなことを言って、「格好ばっかりつけて」と笑われているのを何度か耳にしたことがあります。そのせいか、次郎さんもこういう場で積極的になることを、どこか恥ずかしいと感じています。次郎さんは考えていることを謙さんに伝えました。

 話を聞いた謙さんは、次郎さんに言いました。
「僕は、今の自分に何が必要か分からないし、解決する方法も分からなくて不安だよ。だから、外に出て、人に聞いて、人の真似をしている。確かに、中身が伴わなくて、形だけになることもある。こういう姿を日本では『意識高い系』って言うのかもね。でも、こうして実際に人と関わることは、意識だけでどうにかなることじゃないよ。自分の未熟さを痛感して辛い時もある。ただ、同時に、行動したことで少しは成長しているとも思う。次郎はどう? 今日、何か感じることがあったんじゃないかな」

 謙さんの言うとおりでした。次郎さんは、折角の機会だと分かっているのに、一歩踏み出す勇気を持てない自分に気が付いていました。謙さんや大学の友人たちのことを「意識高い系」と斜に構えて見ていましたが、謙さんたちは行動をして、次郎さんはその姿を見ていただけでした。一歩踏み出す勇気が無い自分から目をそらしていたのだと思い知らされたのです。

 「よし、行こう。次郎」謙さんに促され、参加者の輪に入ることができた次郎さん。思えば美咲さんに初めて誘われた夏から、誰かが背中を押してくれるまで、一歩踏み出せないで過ごしてきたと感じていました。
 「今度こそ、勇気を出して向き合わないといけない人がいる」
 失恋したあの日、黙って隣にいてくれた花子さんのことを思い出している次郎さんでした。