2018年7月の健康便り —メンタル—

人は変えられないということ

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 「はぁ…」
 花子さんの隣で、ため息ばかりついている次郎さん。大企業を含む複数の会社から内定をもらったのですが、就職先について、父親と意見が食い違い、最近はブルーな日が続いています。
 次郎さんが就職先として選んだのは、食品関係の中小企業A社でした。しかし、次郎さんが就職先を伝えると、父親から猛反対されてしまったのです。この2週間、何度も説得を試みましたが、「大きなところで勝負してみろ」という父親の意見は変わりません。次郎さんは中小企業ならではの良さやA社の強み、今後の可能性などを伝えましたが、父親の古い考えを変えることはできませんでした。

 次郎さんは一人で悩んできたことを、花子さんに話してみました。「お父さんが考え方を変えるかどうかはお父さん次第だし、次郎さんはまず、自分の気持ちをお父さんに伝えてみるしかないんじゃないかしら。人の気持ちって変えられないから…」花子さんが言ったのは、次郎さんにとって考えてもみなかった言葉でした。次郎さんは父親の気持ちを変えることにばかり気が向いていましたが、肝心な自分の気持ちを伝えていなかったことに気が付いたのです。

 その晩、次郎さんは改めて父親に自分の気持ちを伝えてみました。
 「父さん、僕は、A社に就職したい。父さんの言うとおり、大企業で働くことは確かに安定していて、メリットも多いと思う。でも、大学で出会った人たちと関わるうちに、食事を通して、人の幸せに貢献することを働く目標にしたいと思うようになったんだ。
 僕は、A社の面接を受けたり、インターンシップを経験したりするうちに、『この会社の人達もみんな、僕と同じ思いを持って働いている』ことが伝わってきた。僕の目標は、他の会社でも叶えられるかもしれないけど、A社の人たちと一緒に取り組んでいきたい」

 父親は、次郎さんの話を頷きながら穏やかな表情で聞いていました。
 「なるほどな。安定志向の次郎が中小企業を選んだのはそういう理由があったからなんだな。昔から次郎は父さんの考え方に反発しているところがあったから、今回もそういう反抗心から中小企業を選んだんだと思っていたよ。父さんは大企業も良いと思うけど、それだけ情熱をもって働きたいと思える会社や仕事があるというのは大事なことだ。応援するよ」

 父親は、拍子抜けするほど、簡単に意見を受け入れてくれました。自分の考えや気持ちを理解してもらうことを複雑に考えすぎていたなあと、気が付いた次郎さんなのでした。