2018年9月の健康便り —メンタル—

「いいね!」を欲しがる心

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 「そろそろ晩御飯にしよう!」
 次郎さんは、川島君と根本君、桐生君のゼミ仲間4人で沖縄にやって来ました。初日から観光名所をドライブし、バーベキューができる海沿いのホテルへ帰ってきました。
 「おい、もういい加減にしろよ、早く食べようぜ」と川島君がイライラしているのは、桐生君が、SNSに投稿するために写真を撮り続けていることが原因です。沖縄に着いてから写真を撮ってばかりで、次郎さんも、その様子が気になっていました。

 「ごめん、ごめん。絶景だから写真撮りたくなってさ。ほら、早速『いいね!』されてる」みんなに謝りながらスマホの画面を見せています。「お前何しに沖縄来たんだ、自慢するために来たのかよ」と川島君はついに怒ってしまいました。
 気になりつつも、川島君が怒るまで何も言えなかったことを申し訳なく思いながら、次郎さんは気持ちを桐生君に伝えました。
 「確かに、川島の気持ちも分らなくないな。せっかく沖縄まで来たのに、桐生が向き合っているのは、僕たちじゃなくてスマホ越しの別の人って感じがする。僕は、楽しくてスマホ持つのも忘れちゃってるけど、桐生は楽しめてないんじゃないかって心配してた。このところ変だけど、何かあったの?」

 「確かに、『いいね!』が増えるのが嬉しくて、だんだんみんなから評価してもらうことに必死になっていたかもしれない。旅行してたくさん写真を撮れば『いいね!』がもらえるって考えで頭が一杯だったと思う。でも、川島が怒るほど嫌な思いさせていることにも、気が付かないくらい夢中だったんだよな。こんなことに必死になって、大事なことの判断もできていなかった。みんな、ごめん。もうやめるよ」
 桐生君らしい、素直で誠実な言葉でした。3人は桐生君の言葉を信じ、4人の中にあったわだかまりは、あっという間になくなりました。

 SNSでは、自分の発信に対して周囲からの反応が得られるため、評価され、認められた気持ちになりやすい面があります。一方で、SNSでの自分は、自分の一面に過ぎません。どれだけ評価をされても、本当の自分を認められていない気持ちが拭いきれず、「もっと多くの人から認められたい」という依存心につながってしまうのかもしれません。しかし、実際に人を支えてくれるのは、自分の良い面、悪い面を理解してくれている人達です。一人の良き理解者の存在が、たくさんのSNS上の評価よりも心の支えになることもあります。
 SNSで評価をされることの優先度が高くなり、現実の人間関係に問題が生じても利用を止められないと感じたら、大学の学生相談所などに相談してみると良いでしょう。

 「ほら、桐生、今こそ出番だ」
 「いや、俺は沖縄にいる間は携帯に触らないと決めたんだ。川島が撮ってくれ」
 「極端だな。店員さん、写真を撮ってもらっていいですか? こいつ抜きで」
 「おい、そりゃないだろ根本! 次郎も何笑ってんだよ」
バーベキューの終わりにみんなで撮った写真は、4人以外は誰も知らない、最高の1枚になりました。