2019年8月の健康便り —メンタル—

それってブラックバイトじゃない?

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 「バイトが全然休めなくて、今日20日ぶりに休みが取れたので、午前中に病院に行ってきました」げっそりした顔で学生相談室にやってきたのは、2年生の杉山さんです。健康管理センターの看護師モモセさんから連絡があった男子学生で、疲労困ぱいしている様子でした。20日ぶりの休みと聞いて、心理カウンセラーのキムラさんも驚きました。
 「毎日深夜まで働いているってモモセさんから聞いていましたが、それが20日も続いていたんですか?」「そうです。バイトがどんどん辞めてしまって、シフトの調整ができないからって。ちょっと遅刻するとバイト代の倍の罰金が差し引かれるんです」

 杉山さんの話では、夏休みに入って、夕方から深夜まで連日働き、家に帰るのが翌日の早朝。飲まず食わずのままベッドに横になり、夕方にはまた出勤するという生活が続いているとのこと。「仕事中も眠いし、胃は痛くなるし。体の調子が悪いせいか、頭も回らなくて集中できません。みんな忙しいのでいつもイライラしているし。だからミスも多くなって、その度に店長にどなられるんです。間違えた注文や壊した食器の代金払え、とか言われると心臓がドキドキして、余計に慌ててしまいます。休めないなら辞めるしかないと思って、何度、店長に辞めさせてほしいって言っても無視されています」

 アルバイト同士の人間関係もギスギスして、頼れる人もいないうえに、先輩からは「使えない」「役立たず」と言われて、辛い思いをしてきたと話してくれました。キムラさんは杉山さんの現状を、「強いストレス状態にある」と感じました。過度の睡眠不足によって、食事も取れないほど疲れきっているところに、店長や先輩からの叱責や暴言によって精神的にも追いつめられた状態になっていると思いました。杉山さんは以前から緊張やストレスで腹痛や下痢を起こしやすかった、とモモセさんからも聞いていました。

 「杉山さん、このままの状態で働き続けたら、体も心も疲れ切って、大きな事故につながる可能性もあると思うよ。まずは体の健康を取り戻すのが先決だと思うんだけど、アルバイトを辞めるために誰か相談できる人はいますか?」とキムラさんが質問すると、「近くに兄がいます。兄は社会人なのでバイト先のことをメールしたら、“それってブラックバイトじゃないか?”と言われました」と涙声で答えました。

 キムラさんは杉山さんの気持ちや考えを聞きながら、お兄さんを通じてアルバイト先に辞める意志をはっきり伝えてもらうように提案しました。大学生にもなって、家族が出てくるのは恥ずかしいと杉山さんは言いましたが、こうしたトラブルには大人が対応した方がうまくいく場合があることを説明したところ、納得してくれました。
 それでも辞めさせてもらえないようなら、大学の学生相談室やキャリアセンターに相談すると、ブラックバイトから学生を守る弁護団を紹介してもらうこともできるという情報を伝えました。
 「何だかちょっと安心しました。明日もバイトだって思うと吐き気がして。今夜、兄に相談してみます」と、杉山さんは少し元気を取り戻したようでした。