2019年11月の健康便り —メンタル—

性の悩み〜心と体の違和感

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 1年生の山田理沙さんが暗い表情で相談室に入ってきました。「何から話していいか…」そう言って、うつむいたまま言葉に詰まっていました。キムラさんは「ゆっくりでいいですよ。話せるところ、どこからでも」と、山田さんのペースに合わせて待ちました。

 「大学に入ってから、どんどん自分のことが分からなくなってきました…。もう何がなんだか。誰に相談したらいいかも分からないし…」と、少しずつ話し始めました。山田さんは今、モヤモヤした世界にいて、一人ぼっちで不安になっているのではないかとキムラさんは想像しました。

 「自分のことが分からなくなるって、きっとすごく不安だよね。そんな中よくここにきてくれましたね」とキムラさんが言葉をかけると、山田さんの表情が和らぎました。「そう、不安なんです。こんなこと聞くのは変だとは分かっているんですが…。自分は女性なんでしょうか。女の子の友達と会っていると、変なことを考えてしまうんです。気持ち悪いんです。自分が嫌なんです」と次々と気持ちが出てきました。

 山田さんの話によると、大学に入学してから、徐々に友達との会話にズレを感じてなじめなくなってきたとのこと。そして最近では、女性の友達の体に触れたいという気持ちが湧いてきて、そんな自分に嫌悪感を抱くようになったというのです。大学に入るまでは自分の心や体に違和感があっても、部活動や受験勉強に打ち込んだりすることでどうにかやり過ごしてきたようです。「こんな話、誰にも言えない…」と山田さんは涙ぐんでうつむきました。

 山田さんはトランスジェンダー(性的違和)や同性愛の問題で悩んでいるのかもしれないとキムラさんは思いました。高校を卒業したばかりの頃は、環境の変化も大きいこともあって、自分らしさとはどういうものか、自分探しの壁にぶつかりやすい時期です。特に、性の問題はとてもナイーブで、慎重に取り扱っていくべきテーマです。キムラさんは、山田さんの悩みはおかしいものではないし、同じように悩んでいる人は少なくないということを伝えました。「今日話してくれたような性の違和感って、とても大事なテーマだと思うの。勇気を出して話してくれて、とても嬉しいです。山田さんがゆっくり時間をかけて向き合っていけるように、どんなところで相談できるのか、私も情報を集めてみますね」とキムラさんは言いました。

 モヤモヤした世界の中にいた山田さんでしたが、ひとつの方向が見えて安心したようでした。「次に会う時には、情報を整理して、一緒にいろいろ考えてみましょう」キムラさんの言葉に、ニッコリうなずく山田さんでした。