2019年12月の健康便り —メンタル—

優先順位が付けられない ~ADHDの特徴~

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 健康管理センター相談室のドアを開けると、すぐさま「あの、あの、あの、僕は困っていることがあります。相談してもいいでしょうか!」と、大きな声で前のめり気味に話す男子学生に、キムラさんはびっくり。
「ちょ、ちょっと待ってね。まずはこちらにおかけくださいね。えーっと、予約の…」たじろぐキムラさんを横目に、「はい、2年の広田です!」と答えると、慌てて椅子に腰かけました。キムラさんは気持ちを落ち着かせて、広田さんに向き合いました。

 「では、困っていることについて聞かせてください」「毎月仕送りが足りなくなってしまうんです。そんなに無駄遣いしているつもりはないんだけど…。なんでかなぁ? 分からないなぁ…」
 広田さんは2年生になった今年の春から、アパートで一人暮らしを始めました。毎月両親から決まった金額を振り込んでもらっているけれど、そのお金をすぐに使い切ってしまい、いつも追加の仕送りを頼んでいるとのことでした。

 「親に言うといつも怒られます。今回もすごく怒っていました。追加の仕送りをするのはこれで最後だと言われてしまいました。どうしたらいいですかね…。もうご飯を食べるのを我慢するしかないですかね…」広田さんは不安でいっぱいになっているようでした。「広田さんは仕送りのお金の管理ができなくて困っているのね。ご飯を食べるのは大事なことだから食費を削るのではなく、他にもっといい方法がないか、一緒に考えましょうね」

 もしかしたら広田さんはADHD(注意欠陥・多動性障害)の傾向があるのかもしれないな、とキムラさんは思いました。ADHDは発達障害の一つで、生まれつきの脳機能の障害です。この障害を抱えた人は物事を抽象的に考えたり、物事の優先順位をつけたりすることが苦手です。また、衝動的になりやすいという特徴もあります。紙に書いて目に見える形で示しながら話を整理したら、広田さんにとって分かりやすいかもしれないと思ったキムラさんは、画用紙とカラーサインペンを持ってきました。

 毎月の出費を紙に書きだしていきます。食費、交際費(サークルの食事会や交通費)、趣味(ゲームや音楽)など。「優先順位を決めていきましょう」優先順位の高いものからランクをつけ、色分けしながら整理していきました。円グラフにまとめてみたところ、広田さんには分かりやすかったようです。表情が生き生きとしてきました。「ゲームに使うお金が比率的にずいぶん大きいですねぇ」「はい…、仕送りしてもらうといつも最初にゲームを買ってしまっていました」と広田さんは言います。書き出した図を一緒に見ながら、毎月趣味に使えるお金の上限がいくらなのか、必要な食費はいくらなのか、といったことを話し合いました。

「おそらく、実際に生活してみるとうまくいかないことがまた出てくると思う。2週間後にまた相談室に来て、見直したらどうかしら」とキムラさんが提案すると、広田さんは次の相談日が決まったことでとても安心したようでした。カラフルに色分けされた画用紙をしっかり持って、広田さんは相談室をあとにしました。