2020年2月の健康便り —メンタル—

子どもの自立~見守ることの大切さ~

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 「学務課に聞いて来ました。息子のことで相談したいんですが…」と尋ねてきたのは、3年生の佐藤流星さんのお母さんでした。「はい、こちらでは親御さんからの相談も受け付けていますよ」とキムラさんは温かく相談室に招き入れました。

 席に着くや否や、「2~3週間くらい前から一人暮らしの息子と連絡が取れなくなっていて、LINEを送っても既読にならないし、電話にも出ないし。何かあったんじゃないかと心配になったものですから、先週、学務課に電話を入れたら、授業には出席していると言われてほっとしました。それで昨日、上京して息子の部屋に行ったんです」と勢いよく話し、涙を拭うお母さん。「息子さんの顔を見るまで、ご心配でしたね」とキムラさんは労いの言葉をかけました。

 「ただね、息子と話をしても何を考えているのか、さっぱり分からないんです…。将来のことで悩んでいるみたいなんですけど」と会話の勢いが少しトーンダウンしました。何があったのか問いただすと、「将来の進路に悩んでいる」という言葉が出てきたそうです。「自分の興味のある分野が分からなくなり、さらには大学に通う意味さえも分からなくなってしまったみたいです」

 就職活動中は、エントリーシート提出などで自己分析を求められる機会が増えます。企業にアピールできる強みを見つけなければならない自己分析は、心への負担が大きく、自分の将来に不安を感じてしまう学生も少なくありません。流星さんもそのような状態に陥ったのでは、とキムラさんは考えました。

 「もっと早く相談してくれたらいいのに…。高校生の時は何でも話してくれて、私がアドバイスしていたんですよ」と寂しそうにお母さんは語りました。流星さんは心配するお母さんに「これからのことは、自分で考えたいから放っておいてくれ」と、どなったそうです。

 「放っておいてくれという流星さんは、お母さんに頼らず自分の問題に向き合おうとしているのではないでしょうか」とキムラさんは言いました。「そうですね。これまで、本人がこうしたいって言う前に、私が何でも決めてしまっていたかも…。息子の答えを待ってあげてなかったのかもしれない」と反省するお母さんを見て、「親が子どものことを心配するのは当然のことです。しかし、それが行き過ぎると、本人のやる気をつぶしてしまいかねません」とキムラさんは優しく伝えました。

 親の言う通りに行動することが習慣になってしまうと、何も考えない、考えられない子どもになってしまい、いざ、一人立ちしなくてはいけない場面で不安を抱えます。「今は流星さんを信じて、彼の自立をそっと見守ってみませんか?」「見守る…、そうですね。息子を信じようと思います」という言葉を残し、お母さんは相談室を後にしました。
 「見守る」というのは一見簡単な行動のように思えますが、子どもへの信頼がなければできることではありません。愛をもって見守ることの難しさを痛感するキムラさんでした。