2020年10月の健康便り —メンタル—

学生に注意できない講師の悩み

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 「キムラさん、今いいかしら」浮かない顔で健康管理センターの相談室に来たのは、キャリア科目を担当している講師の梅田洋子先生でした。「この時間、予約はないから大丈夫ですよ。どうしました?」キムラさんが尋ねると、大きなため息をつきながら梅田先生は話し始めました。

 「授業中にスマホを見ている学生が必ずいるのよ。こちらが分からないとでも思っているのかしら。授業に集中してくれないと、真面目に受けようとしている学生にも悪影響なのよ。『授業を受ける気がないなら、教室から出ていきなさい!』って、言いたいくらいよ」と話しながらヒートアップする梅田先生。勢いに押されて黙っているキムラさんを見て、はっと我に返った梅田先生は「感情的になると、言葉も強くなるし、指導するときは気をつけないとアカハラって言われちゃうわね。キムラさん、どんなふうにすればいいのかしら?」と尋ねました。

 アカハラとは、アカデミックハラスメント(academic harassment)の略語で、大学や大学院などで教職員や学生間において地位や人間関係などの優位性を利用し、相手に対して精神的、肉体的な苦痛を与える行為のことです。企業などではハラスメントは大きな問題となっています。大学でもハラスメントはあってはならない行為ですから、先生たちも気を付けなければなりません。

 梅田先生は、キャリア科目は学生たちの将来に関わる大事な内容なので、しっかり授業を受けて欲しいと思っているとのこと。そのために授業内容にも工夫を凝らしているのだそうです。「梅田先生は、せっかく工夫した授業内容をちゃんと聞いてもらえないと悔しくて残念なんですよね? でしたら、その気持ちを学生たちに伝えてみてはどうでしょう?」とキムラさんは言いました。

 キムラさんは、梅田先生に自分の気持ちを率直に伝える「Ⅰメッセージ」というコミュニケーションの方法を教えました。「私は授業を分かりやすく皆さんに伝えるために、いろいろな工夫をしてきました。だから、授業に集中していない人がいると残念な気持ちになります」これが梅田先生のⅠメッセージです。Ⅰメッセージは相手に指示命令したり、脅したりするものではありません。ですから、受け取る相手が「ハラスメントだ」と思うことも少ないのです。「なるほど、コミュニケーションは相手が受け取りやすいボールで投げないと、自分の気持ちは伝わらないってことなのね。次の授業でも同じようなことがあったら、Ⅰメッセージで言ってみるわ」と、梅田先生は明るい声で言いました。