2020年12月の健康便り —メンタル—

性の悩み~本当の「私」で成人式に出たい

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 後期に入って健康管理センターの相談室でも、オンライン相談ができるようになりました。今日の相談者は、2年生の藤原洋介さんですが、画面にはかわいらしい女子学生が写っていました。「藤原洋介さんですね?」キムラさんが改めてたずねると、「はい、そうです。でも私、入学したときに藤原リコという通称を使っていいことになっています。学生課もまわりの友達も私が性同一性障害ってことは知っています」ハキハキと答えてくれました。

 藤原さんは高校生の時に、性同一性障害(GID: Gender Identity Disorder)の診断を受けました。性同一性障害とは、「自分の生まれ持った身体の性と、心の性(自分自身が自分の性をどう感じているか)が一致しない状態のこと」を指します。最近では性別違和(GD: Gender Dysphoria)という名称に改められていますが、藤原さんも幼い頃から、その違和感に悩みながら過ごしてきました。ご家族も藤原さんの悩みを受け入れ、大学入学をきっかけに、自身が認識している「女子」として、外見も変えて日常生活を送ることにしたそうです。多少不便なことはあっても、普段の生活に大きな支障はないということでした。

 ただ、来年の成人式のことを考えると、気持ちが落ち込むことがあると話し始めました。「私は振袖で成人式に出るつもりなんです。でも式の後に中学校のクラス会があって、出席したいけど、同じクラスだった男子たちがどういう反応するか心配なんです」中学生の頃、すでに心の性は「女子」だったけど、まわりには気づかれないように注意していたとのこと。だから、急に変わった自分を見てびっくりするんじゃないか、不快なことを言われたりするんじゃないか、と不安が大きくなってきたそうです。「自分が傷つくのも怖いし、近所の子もいるから、変な噂とか広がったら嫌だなぁと思って。家族や兄弟にも迷惑かけちゃうかもしれないし…」と沈んだ表情を見せました。

 キムラさんは「藤原さんの不安を少しでも軽くするために、今からできそうなことはあるかなぁ?」と質問しました。しばらく考え込んでいた藤原さん。「ずっと仲良くしている女子の友達は何人もいるし、その子たちに相談してみようかな…。みんなで振袖着て行こうって約束したんです。彼女たちは私のことちゃんと分かってくれているから…」「そう、理解してくれる友達がいるのは心強いね」「はい、リコの方が女子力高い!って、ほめてくれます」と明るい声で話してくれました。

 藤原さんの話を聞きながら、これまでも難しい決断をひとつひとつ乗り越えてきたんだろうなぁ、そんな彼女を家族や友達が支えてきたんだろうなぁ、とキムラさんは胸が熱くなりました。性の悩みを抱えている人は少なくありません。自分の考え方や性質を大切にしたいという思いがあるでしょう。お互いの個性を理解し合うためには、まずは「知る」ことが大切です。キムラさんはこれから、学生たちにも広くセクシャルマイノリティについて学べる機会をつくっていこうと心に決めました。