2021年2月の健康便り —メンタル—

子離れ、親離れ

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 今回の相談者は、4月から大学院に進学する4年生、深沢慎之介さんの母親です。進学が決まって安心していたら、最近、息子が塾講師のアルバイトにも行かず、部屋に引きこもっているとのこと。アルバイト先で何かあったのではないかと気になって理由を聞いても、「なんでもない」「お母さんには関係ない」というばかりで何も話してくれない。そして時々、「生きている意味が分からない、消えてしまいたい」とつぶやくので心配でたまらない、という相談内容でした。

 キムラさんは母親の不安な気持ちを受け止めながら話を聴きました。「息子は優しい子だから、嫌なことがあっても自分からは言い出せないと思うんです。塾長さんに相談した方がいいでしょうか?」キムラさんは慌てて「息子さんが引きこもっている原因は分からないんですよね? 何が原因かも分からないのに、お母さんがいきなり塾長さんに相談したら、息子さんはどう思うでしょうか?」と質問すると、「そうですよね…、余計なことするなって怒ると思います。でも、部屋から出てこないし、消えたいなんて言われると心配で、心配で。あの子にどう接したらいいんでしょう」と言葉を詰まらせました。

 目の前で息子が苦しんでいるのだから、何とか助けてあげたいという親心が伝わってきました。ただ、自分の悩みを母親に打ち明けず、生きる意味を模索している慎之介さんの気持ちもキムラさんには理解できました。「子ども」といっても、慎之介さんは成人した男性です。親に何でも話すような年頃でもありません。

 「今の息子さんはどんな気持ちなんでしょうね?」と母親に質問してみると、「親には口出ししてほしくないとか、自分でもどうしていいか分からないとか、ですかね」とのこと。「そうですよね、息子さんはもがきながらも自分で答えを出そうとしているのかもしれませんね。そんな息子さんにどうしてあげたら良さそうですか?」「見守る…というか、話してくれるまで待つしかないんでしょうか…」と答えました。

 親は子どもよりたくさんの「答え(解決策)」をもっていると思いがちです。確かに豊かな人生経験がありますから、そう考えるのも当然でしょう。ただし、親が与える答えが、子どもにとって最適な解決策かどうかは分かりません。心理学では「その人が必要とする答え(解決策)は、その人の中に眠っている」と考えます。これは親子の関係だけでなく、どのような人間関係でも言えることです。自分の中に眠っている答えに気づいたり、見つけたりするためには時間も必要です。周りの人が、悩みや不安を抱えている時、アドバイスや励ましの言葉をかけることも思いやりですが、「今、この人は自分の答えを探しているんだ」と信じて見守るというのも大切なことです。

 「結局、私が子離れしないとダメなんですよね。子どもの方が先に親離れしているのに…」と寂しそうなひと言が聞こえてきました。「親離れは息子さんの成長の証ですし、子離れはお母さんが次のステップに踏み出すチャンスではないでしょうか?」とキムラさんが声をかけると、電話口から「そうですよね」と納得したような返事が返ってきました。