2021年3月の健康便り —メンタル—

劣等感について

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 3年生の斉藤美緒さんは、少しおどおどした様子で相談室のキムラさんの前に座りました。「今日はどのような相談ですか?」とキムラさんが尋ねると、ゆっくりと言葉を選ぶように話し始めました。

 「ずっとオンライン授業だったんですけど、先週久しぶりに対面授業があって…。教室で友達にいきなり、“美緒ちゃん、やせた? ダイエットしたの?”と言われたんです。“やせた?”って聞くってことは、今まで私のことを太っていると思ってたの? って、すごくショックでした」
 「お友達の言葉に傷ついてしまったんですね」とキムラさんは、その気持ちを受け止めました。きっとみんなで私のことを、デブとかブスとかって言っていたんだ、私がいないところで笑いものにしていたに違いない、親友だと思っていたのに裏切られた、そう考え始めたら眠れなくなった、と斉藤さんは続けました。

 斉藤さんは子どもの頃、父親から言われた何気ない一言が原因で、「自分はデブでブスだ」という劣等感を持ってしまったそうです。食事や体形には人一倍気をつけていて、「母や姉には、気にし過ぎだと言われるけど、そんな気休めを言われると余計イライラする」と言いました。
 劣等感とは「自分が他人よりも劣っていると感じること」です。自分が思い込んでいるネガティブな感情ですから、周りの人に「そんなことはない」と否定されても、簡単に納得できるものではありません。「斉藤さん、実際にはやせたんですか?」と聞いてみると、「ダイエットしたわけじゃないけど、少しやせました」とのこと。「だったら、お友達が“やせた?”と言うのは本当だよね。ダイエットはしてないけど、やせたのは事実なんでしょ?」とキムラさんが伝えると、斉藤さんはハッとして顔を上げました。

 斉藤さんは自分の劣等感と友達の「やせた?」という言葉を結びつけて、ショックを受けていただけでした。みんなが自分のことを笑いものにしている、というのも劣等感が生み出した思い込みです。「お友達は斉藤さんの変化に気づいたってことじゃない? 劣等感をすぐに克服することは難しいかもしれないけど、親友だと思っていた人の言葉は、もう少し信じてもいいんじゃないかなぁ?」とキムラさんは言いました。

 青年期と呼ばれる大学生の年代は、不安やプレッシャーを感じやすい年頃でもあります。何に対しても自信が持てない、自分の容姿が気になる、他人と比べて自分には良いところなんてひとつもない…と悩んでしまう人も多いでしょう。特に劣等感を抱えていると、斉藤さんのように誤った思い込みが事実さえもねじ曲げてしまうことがあります。
 「周りの目を気にしてしまうのも無理はないけど、食事や体形を管理して、結果も出しているんだから、もっと自分に自信を持っていいと思うよ」
 「そうですよね、やせた私を見て、事実を認めてくれたのに。ホント、私ってバカみたい」とキムラさんの言葉に勇気づけられた斉藤さんでした。