2021年10月の健康便り —メンタル—

価値観の違い~私の選択、彼の選択~

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 「先生、ちょっと聞いてください!」そう言って健康管理センターの相談室に勢いよく駆け込んできた、大学2年生の田中麻美さん。今日はとても怒っている様子です。彼女はいつも誰かを心配して相談室に付き添って来てくれるような正義感の強い学生です。

 「友だちの森山公平さんが、『ワクチンなんか打たない』って言うんです」「ワクチンを打つのが怖い。なんの保証もないのにワクチンを打つ人の気が知れない、なんて言うんですよ」「私、頭にきて、けんかになってしまいました。ワクチンはみんなで受けなければ意味がないですよね」田中さんは鼻息荒く、身を乗り出して言いました。
 カウンセラーのキムラさんは話をさえぎらずにうなずきながら聴きました。感染症との闘いが続き、誰もが閉塞感を感じる中、まじめな田中さんは森山さんとの考え方のギャップに腹が立ってしまったのでしょう。キムラさんは田中さんの目を見つめて話し始めました。「それは、森山さんの言い方にもひっかかってしまったのでしょうね」
 「言い方は別として、ワクチンを打たない森山さんの考えも一つであり、また田中さんの考えも正しい。どちらも間違っていないと思いますよ」そう言い切ったキムラさんの言葉に、田中さんは目を丸くしました。キムラさんは続けます。
 「皆が揃ってワクチンを打つことが感染症の対策には必要な部分がありますね。かと言って、それを強要できない面もある。体調や持病、考え方の違いによっては、あえてワクチンを打たない選択肢もあるのだと思いますよ」
 「今回のワクチンのことだけでなく、人によって感じ方や考え方の違いがあるのは当然だと思います。お互いの価値感が違うことはあってよく、一方だけが正しいと思うのは危険かもしれません。ワクチンを打たないとは言いづらい雰囲気がある中、森山さんは田中さんには本音が言えたのかもしれないですね」

 ハッとした様子となり、顔を赤らめた田中さん。一呼吸おいて口を開きました。「わたし、森山さんのことを非難したい気持ちでいっぱいでした。実際、非難しちゃいましたし」「でも先生の言うように、考えに違いがあるのは当り前ですよね。なんか頭ごなしに言ってしまって悪かったな」「もう一度森山さんの考えを聞いてみようと思います」そう言って、すっきりした表情になりました。
 考えや感じ方が違うのは当たり前。様々な価値観が問われる今のような時こそ、それぞれがその違いを持ち寄って、お互いを理解することが大事なのでしょう。森山さんに気持ちを伝え、話し合うことができるようにと願いつつ、キムラさんは田中さんを送り出しました。