2022年6月の健康便り —メンタル—
一人暮らしを始めた大学1年生の佐々木真央さんが、浮かない表情で健康管理センター相談室のキムラさんのもとへやって来ました。
「親から離れて一人暮らしを始め、ようやく、自分の思うように生きていいんだ、とホッとしていました。でも、母からのLINEメッセージが一日10件を超え、すぐに返さないと怒りだすんです。朝起きてLINEをみるのが憂うつになってきて…」
キムラさんは幼少期からの母親との関係について尋ねました。「今まで母から常に成績優秀であることを求められ、それに応えるために“いい子”を演じてきました…」と話し始めました。真央さんは母親から、「○○大学に行きなさい」「あの彼氏と別れなさい」など、“あなたのためだから”と強制的に従わされてきました。自分自身の感情や要求は出さないように押し込めてきたのだと言います。
キムラさんは「親として子どもに干渉するのは、ある程度は仕方ないことだと思うけれど、真央さんはどんなところが苦しかったのですか」と問いかけます。
「母の言う通りにすることでほめてもらえ、母は喜んでいる。いつしかほめられるために母に従うようになりました。常に『頑張りなさい』『ちゃんとしなさい』と言われ、いつも一杯一杯でした。気がつくと嬉しいのか悲しいのか自分の感情が分からなくなってしまって」と真央さんは目を潤ませました。
「親には、子どもが親に吐き出す不安感などの感情を受け止めることで、『自分の感情は抑えずに相手に伝えていいんだよ』という対人関係の基本を教える、という役割があります。そこが機能しないと、子どもの対人関係に問題が出てきます。常に親の顔色をうかがうため、次第に他人の顔色ばかりうかがって『NO』と言えず、苦しくなります」とキムラさんが説明すると、「そうなんです。私が我慢すれば丸く収まるって思ってしまって…」と真央さんは答えます。
「特に一人っ子だと親の思いが真央さん一人に集中してしまうことがあるかもしれません。でも母親に娘が苦しんでいることを気づかせるというのはちょっと気が重いわね。まずは母親から離れる、逃げることから始めてみてはどうかしら」とキムラさんが提案しました。「逃げていいんですか。具体的にはどうしたらいいんでしょうか」と真央さん。
「親なんだから、話せば分かると思うかもしれません。でも、分かってもらおうとして話し合っても、親は今まで通り説得してきます。まずは親と距離を置く。一人暮らしができたことは第一歩です。できるだけコミュニケーションをとらないようにするという選択もあります。次に、今あなたがしているように、専門家など第三者へ相談することです。これから一緒に、親との関係を変えていくための作戦を立てましょう」
キムラさんの言葉に、一人で抱えこまなくていいんだ、とホッとした真央さんの表情はとても穏やかでした。