2023年4月の健康便り —メンタル—

新学期の罠

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 新学期が始まり数週間経った頃、健康管理センターの前をウロウロしている学生の姿が見えました。相談室のキムラさんが「どうぞ」と声をかけると、中に入った男子学生は少し戸惑いながら「何から話していいか…」と無言になりました。キムラさんは「ご自分のペースで大丈夫ですよ」と促すと、ぽつぽつと話し始めました。

 田島要さんは第一志望の大学に合格し、積極的に学生生活を楽しむために取り組んできたことを話してくれました。入学して2週間たった頃、スポーツのインカレサークルをのぞいてみることにしました。先輩たちは優しく、中学・高校の時に慣れ親しんだスポーツということもあり、同じように打ち込んできた人たちと話すのは楽しい時間でした。特に他大学の3年生マサルさんと仲良くなりました。マサルさんは「田島、年上なんて思わなくていいからさ、仲良くしよう」と気さくに話してくれました。大学生活を謳歌しているかっこいい先輩だと思いました。
 数日後にマサルさんと遊ぶことになりました。その後も遊ぶたびに食事をおごってくれるので、裕福なんだろうなと思っていました。ある時、マサルさんから「実は学生だけど、起業しているんだよね。田島も興味ある?」と言われました。学生時代に起業するのは憧れだったので、興味があると伝えると、起業イベントに誘われました。しかし、参加してみるとそこでは起業のメリットの話ばかりで、何を質問しても「僕たちの言うとおりにしていたら必ず成功するから大丈夫」としか言いません。不審に感じて帰ろうとしたところ、アンケート用紙に記入しないと帰さないと言われました。マサルさんもいるので嘘も書けず、個人情報も書いてしまいました。今のところ、特に連絡はありませんが、「何かあったらどうしよう」「親に迷惑がかかったら…」と考えて、怖くなってしまいました。
 それ以来、マサルさんとも気まずくなってしまい、相談できる人がいないとのことでした。

 キムラさんは不安を話してくれたことに感謝し、田島さんと一緒にこれからどうすればいいかを考えました。住所や電話番号、家族構成などの個人情報も書いたということから、まずは、親に正直に話してみるのはどうか、と伝えました。また、今後もしも必要であれば、家族だけで抱え込まず、法的なトラブルの解決に必要な情報提供やサービスの提供が受けられる法テラス(日本司法支援センター)など、公的機関への相談という方法もあるとアドバイスしました。
 田島さんはほっとした様子で「相談してよかったです。ありがとうございました」と言い、相談室を後にしました。