2023年6月の健康便り —メンタル—

発達障害者の生きにくさ

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 「これから相談に行っていいですか。友達から距離を置かれ、ゼミにもなじめない。このままだと就活も無理だと思います。なんかもう、どうしたらよいか分からなくなってしまって…」
 ある日の夕方、大学2年生の渡辺和樹さんから健康管理センターに電話が入りました。渡辺さんが混乱し、切羽詰まっている様子が息づかいや話し方から伝わってきました。健康管理センター相談室のキムラさんは急きょ面談をすることにしました。

 渡辺さんは相談室に入るやいなや、立ったまま「友達に…」と話し始めようとしました。キムラさんは「まずはお座りください。友達と何があったのですか」と、穏やかに渡辺さんを見ながら話しかけました。
 渡辺さんは座ると同時に「やっと仲良くなった友達に『あなたと一緒にいると疲れる。なれなれしいし、相手のことを考えない人とは付き合えない』と言われ、縁を切られた。ゼミもつらい。話し合いは苦手。独り言を言ったり、関係ないことを一方的にしゃべったりしてしまう。今日もゼミで『うるさい。声が大き過ぎる。人のことを考えろ』と注意された。教授はそのやり取りを見て『気をつけようね』と言っただけだった」と話しました。キムラさんは相づちを打ちながら話を聞いていましたが、一生懸命に話す渡辺さんと目がほとんど合わないことに気づきました。
 ひとしきり話した後、渡辺さんは、子どもの頃から集団になじめず、仲間はずれなどのいじめを受けていたことが、最近の友達関係やゼミでの出来事と通じていると気づいたようでした。そして高校入学後に、周囲に合わせようと無理をして心身のバランスを崩したこと、スクールカウンセラーに相談後、発達障害専門病院を受診し、自閉スペクトラム症のグレーゾーンと診断されたことを明かしてくれました。ただ、その頃は先生や家族、鉄道模型作りの趣味でつながっている友達が支えてくれたそうです。「今は誰も助けてくれない。周りに受け入れてもらえていない」と嘆きました。

 キムラさんは、今日、健康管理センターへ相談することができた渡辺さんの「助けを求める力」を称えました。そして、今後は相談室での面談を継続し、ソーシャルスキルトレーニングやリラックス方法の習得をしたり、安心できる居場所を探してみたりするのはどうかと提案しました。
 渡辺さんは「ぜひお願いします」と意欲を見せ、次回の面談予約をして帰っていきました。