2023年7月の健康便り —メンタル—

自分の人生を生きる~発達障害者の家族として~

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 プルルルル…。健康管理センターの電話が鳴りました。相談室のキムラさんが電話を取ると、大学1年生の藤田優愛さんでした。「あの…、自分のことではないんですが、相談できますか」キムラさんは「大丈夫ですよ」と伝え、面談の予約日を決めました。

 面談当日、藤田さんは予約時間の5分前に相談室に来ました。キムラさんは「電話の時に自分のことではないと言ってましたが、どなたのことで相談したいのでしょうか」と優しく話しかけました。
 藤田さんは、3歳上の兄に発達障害があること、兄の世話や行動特性への対応に母親が苦労し、悩んでいること、父親は無関心で何もしないことについて堰を切ったように話し始めました。その中で自分は我慢して家族の都合に合わせ、母親を手伝い、負担にならないように考えて生活していたとのこと。そのような家から離れたくて一人暮らしができる大学を選んだということでした。キムラさんは藤田さんのペースに合わせながら、これまで抑圧してきた気持ちを優しく受け止めつつ話を聞きました。

 「家を離れたら、これまでやりたかったけど我慢していたことを思い切りやれる。大学生活や一人暮らしを自由に楽しめると思っていたんです」藤田さんはそう言いました。
 ところが、一人の時間を楽しみたいという気持ちとともに、母親に悪いことをしているような気がする、と母親に対する罪悪感を持っていました。キムラさんが、母親を思いやる優しい心の持ち主だとほめると、藤田さんはほめられることに慣れていないのか、ややうつむきながら照れ笑いを浮かべていました。

 キムラさんが大学進学や一人暮らしについての母親の意見はどうだったのかを尋ねると、藤田さんは少し考えてからこう答えました。「大学進学は、私が何をやりたいかを尊重してくれたので、受ける大学は自分で決めました。一人暮らしも『寂しくなるね~』とは言われたけど、笑顔で『頑張りなさいよ』と送り出してくれました」

 「お母さんの願いは、決してお兄さんのために我慢してほしいということではなさそうですね。藤田さんには自分の人生を歩んでほしいと願っているのではないでしょうか。ご家族を思いやる気持ちを持っていることは藤田さんの長所です。そこを活かしながら人生をどう楽しむかを、これから一緒に考えていきませんか」とキムラさんは伝えました。
 藤田さんは「はい。お願いします」と笑顔を見せ、次回の予約をして帰っていきました。