2023年11月の健康便り —メンタル—

進路の迷い

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 黄色く染まった銀杏並木を臨むキャンパス内のカフェテラスで、大学3年生の大野清太郎さんは海外留学の資料に目を通していました。コーヒーを一口すすり、考えをめぐらすように上を向くと、ゼミ仲間の田中さんが手を振りながら近づいてくるのが見えました。ランチの約束をしていた田中さんは、「お待たせ」と言って席に座るとすぐに、大野さんの手元にある資料について尋ねました。
 「海外留学するの?」と驚いたように問いかける田中さんに、大野さんは「そういうわけじゃないんだけど…」とあいまいな表情で答えます。高校時代の友人たちは海外留学や大学院進学など、就職にこだわらず進路を決めています。漠然と就職することを考えていた大野さんは「このままでよいのだろうか」と悩み始めていたのでした。
 田中さんは、自分が学生生活の悩み事を健康管理センターの相談室で相談してきたことを伝え、「一度話を聴いてもらうといいよ」と大野さんに相談室の利用を勧めました。大野さんはこれまで相談室を利用したことはありませんでしたが、気の置けない友人である田中さんの言葉に「そうだね。今度予約を入れてみるよ」と返し、おすすめランチのビーフカレーを口に運びました。

 後日、大野さんから進路の悩みについて話を聴いた相談室のキムラさんは、にこやかに語りかけます。「何が正解なのでしょうね。だって、うまくいったと思っても課題に直面することがあるし、失敗が長期的には成功につながることもあるでしょう?」
 知らず知らずのうちに、進路に‟正解”を求めようとしていたことに気づいた大野さんは、「なるほど」と大きくうなずきました。「目標を見つけて進んでいくのはとても大切なことですが、日常生活の中で気づきが得られることもあります。焦らず、目の前の一つひとつのことにしっかりと取り組んでみてもいいのではないでしょうか」と続けるキムラさんの話を聴いているうちに、大野さんはすっきりとした気持ちになっていました。そして少しおどけた表情で「まずはゼミの課題と向き合います。ありがとうございました」と晴れやかに相談室を後にしました。
 キムラさんは、大野さんの背中を優しく見つめながら、「何かあればいつでも話しにきてくださいね」と声をかけました。