2024年1月の健康便り —メンタル—

災害報道につらくなったら

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 雪が降りしきる夜、大学4年生の山下淳子さんはひとり暮らしの部屋でくつろぎながら推しの芸人が出演するバラエティ番組を見ようとテレビの前で始まるのを待ち構えていました。不意に「ピピッ、ピピッ」と音が鳴り、テレビ画面に「ニュース速報」というテロップが流れました。外国で大規模な地震が発生し、震度や死者数、負傷者数などの速報が繰り返し流れます。被害状況を知らせるテロップは番組が終わっても止まりません。そのままニュース番組を見続け、遠い国の地震災害のことで頭がいっぱいになってしまいました。
 山下さんは大学のボランティアサークルに所属していて、震災の復興支援に携わったこともあります。被災者の方から直接、地震発生時の恐怖や被害の話を聴く機会があり、その時は自分のことのように苦しい思いをしましたが、今回も同じような感覚に陥りました。

 地震のことが頭から離れず寝付けなかった山下さんは、翌日、健康管理センターの相談室を訪れました。相談室のキムラさんはにこやかに山下さんを招き入れ、「どうしましたか」と尋ねます。
 山下さんは、繰り返される地震のニュースを見て、あたかも自分自身が体験したかのようにつらくなってしまった、被害者のことを考えると胸が締め付けられるような思いがしたと、少し疲れた様子で吐き出しました。話を聴いたキムラさんは、「つらかったですね」と優しく伝えながら続けます。「被害を受けた方の気持ちや体験はその人のもので、実際のところ全てを理解することは困難です。被災者に自分を重ねても何かが変わるわけではありません。被災者と自分自身は異なる存在だと認められると楽になるかもしれませんね。また、被災者に何もしてあげられないと思い悩むのではなく『できることは何か』と視点を変えてみる、つらいニュースの情報源となるテレビやスマートフォンを見ないようにして情報を制限することも自分の心を守るためには有効です」
 相談を終えると、つらい思いを言葉に出せたことで山下さんの気持ちは軽くなり、表情には明るさが戻っていました。「ありがとうございました!」と相談室を後にする山下さんを、キムラさんは優しく見送りました。