2024年2月の健康便り —メンタル—

大切な人を亡くしてしまったら

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 大学4年生の竹山美幸さんは、地元から離れて学生生活を送っています。就職が決まり、卒業論文も提出してホッとした毎日を過ごしていました。ところが、ある日実家から連絡があり、母親が突然の病で亡くなったことを知らされました。これまで竹山さんを常に励まし、包み込んでくれた一番の理解者が母親でした。そんな大きな存在であった母親が、急にこの世からいなくなった事実を竹山さんは葬儀が営まれた後も受け入れられずにいました。

 葬儀から一週間ほどが経ち、竹山さんは一人暮らしのアパートへ戻ってきました。すると、母親が亡くなったという実感がなかなか湧かなかった竹山さんに、少しずつ自分を責めるような感覚が生じてきました。「どうしてお母さんが亡くなる前に会ってあげなかったのだろう。死に目に会うことができなかったのは親不孝だ」「私がお母さんの病の兆候に気づいてあげていれば、助けられたのではないだろうか」「死ぬ間際に心残りだったのではないか。私がもっとちゃんとしていれば、お母さんはせめて安心して逝けたのに…」いつの間にかそんなことばかりが頭に浮かぶようになっていました。
 次第に食事が喉を通らなくなり、夜、眠ることもままならなくなりました。趣味だった映画鑑賞や、友達との付き合いからも距離を置くようになり、笑顔が消えていきました。心配したゼミの仲間から勧められ、竹山さんは健康管理センターの相談室を訪ねました。

 相談室のキムラさんは、竹山さんから一部始終を聴き、次のように伝えました。「お母さんが突然亡くなられて、とても辛く悲しい想いをされたのですね」そう言われた竹山さんは、初めて母親が亡くなったことがいかに自分にとって大きな悲しみであったのかを理解できました。「お母さん、どうして急にいなくなってしまったの…。なんでさようならを言ってくれなかったの…」竹山さんから母親への想いがあふれでました。
 キムラさんはその想いを静かに聴き続けました。そして「大切な人を亡くした時、残された人はとても悲しい沈んだ気持ちになります。けれど、人間はしなやかな部分も持っています。そうした気持ちはあくまで一時的なもので、ちょっとずつ大切な人がいなくなったことを受け入れて、また日常生活が送れるようになります。もう少ししたら竹山さんも元通り元気になれると思いますよ。そうなることをお母さんも望んでいらっしゃるのではないでしょうか」と伝えました。
 相談を終え、竹山さんは少しだけ気持ちが軽くなったと感じていました。そして、なにか食べて帰るように勧めるキムラさんにうなずいて相談室を後にしました。