2024年6月の健康便り —メンタル—

ヤングケアラーになっていませんか~家族のケアを一人で抱える前に~

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 ある日の午後、健康管理センター相談室のキムラさんのところへ、文学部の佐々木教授がゼミ生の小柳理沙さんを連れてやって来ました。教授は「私も一緒にいても構いませんか」とたずね、3人での会話が始まりました。
 小柳さんは大学3年生。奨学金を借りて大学に通っています。昨年、母親にがんが見つかりました。手術や抗がん剤治療を経て、一時は回復しましたが、4月に入りがんが再発したとのこと。母親の状態はかなり悪く、小柳さんは看病や家事のために数か月、大学に来ていませんでした。父親は小柳さんが高校生の時にがんで亡くなっており、頼れる親戚もいません。
 佐々木教授は小柳さんが大学で勉強できるようにサポートしたいと思っているとのことでした。母親が一時入院している間に久しぶりに大学に来た小柳さんを「一緒に相談室に行ってみよう」と誘って、来てくれたのでした。

<誰にも相談できなかった>
 小柳さんは「今まで誰にも話せなかったから、勇気を出して佐々木教授に相談してよかったです」と自分の状況を話し始めました。小柳さんには高校生と中学生の弟が2人おり、母親の看病だけでなく、食べ盛りの弟たちの世話もしています。幸い、弟2人も協力的で家事は分担できているようです。キムラさんは「本当によくやっているね。弟さんたちも協力して本当にすごいと思うよ」と伝えました。
 小柳さんは少し照れた様子で「当たり前のことをやっているだけです」と話しました。「私はお姉ちゃんだから頑張らないと…。本当は学校に行きたいんです。でもやせていく母を見ていると自分もがんになってしまうのではないかという見えない恐怖みたいな気持ちが出てきて…。父もがんで亡くしているので、そういう家系なのかなって思うと元気が出なくて…」と言葉を詰まらせました。小柳さんが母親や弟たちの世話だけでなく、自分もがんになるかもしれないという不安な気持ちと闘っていることが伝わり、キムラさんは「本当によく頑張っているね」と優しく語りかけました。
<一人で頑張らないで>
 キムラさんは、患者やその家族の相談にのってくれる病院の相談室にいるソーシャルワーカーの存在を伝えました。社会資源の中で活用できるヘルパー制度や金銭面でのサポートがないかなど聞いてみるようアドバイスし、「一人で抱えようと思わなくていいんですよ」と伝えました。
 小柳さんは「母が入院している間に、病院に状況を伝えて相談してみようと思います。今日は大学に来られて本当によかったです。気持ちが楽になりました」と話しました。
 未成年でも、責任感の強い人ほど「家族の世話はして当たり前」「自分さえ我慢すれば」と考えてしまうことがあります。大切な家族の世話をするのは間違ったことではありません。でも、誰か一人が犠牲になることを家族は望んでいるでしょうか? 一人で頑張り過ぎていませんか? 信頼できる周囲の大人に気持ちを話してみることで、重すぎる荷物をみんなで少しずつ担うことができるかもしれませんよ、と思うキムラさんでした。