高橋蒼さんは、大学2年生。4月から塾講師のアルバイトを始めました。しかし、近ごろ塾長との関係で悩み始めています。そんな中、アルバイト先の同僚の一言をきっかけに、健康管理センターの相談室でキムラさんに相談することにしました。
- <自分のせいだと思って我慢していたけれど…>
- 相談室を訪れた高橋さんは、暗い面持ちでアルバイト先のことを話し始めました。研修が明けた7月ごろから、塾長から「なんで生徒の成績を上げられないんだ!」と毎日のようにどなられる、ミスをしたら終業後2時間にわたって叱責されるなど、理不尽な思いをすることが多くなってきました。怒られることに悩みながらも「ミスした自分が悪い」と頑張っていましたが、怒られたことを寝る前に思い出すことが増え、眠れない日が続きました。大学の授業に集中できず、アルバイトにも行きたくない気持ちが募ります。
ある日同僚から「塾長がやっていることってパワハラなんじゃないかな。どこかに相談したほうがいいんじゃない」と言われたことをきっかけに、これって「パワハラなのかな」という思いが強くなっていたのでした。
- <社内の人や相談窓口に相談を>
- 「よく相談に来てくれましたね」とキムラさんは高橋さんが抱え込まずに話してくれたことを労いました。その上で、パワーハラスメントには6つの類型があり、高橋さんが受けている叱責や人格を否定するような暴言は「精神的な攻撃」にあたる可能性を伝えました。
キムラさんがこれからどうしたいかを尋ねると、「最近は生徒が頑張っている姿を見てやりがいを感じていたので、塾長から怒られることが減るのであれば続けていきたい」とのこと。高橋さんの今の職場で頑張りたい気持ちを受け取り、その上で社内に信頼できる方がいればその方に相談するよう提案しました。また、それが難しい場合は、会社の「ハラスメント相談窓口」(※事業主にはハラスメント相談窓口の設置と周知が法律で義務付けられています)に相談する方法もあることを伝えました。相談するにあたり、どんな言動があったかを記録しておくことも大切です。
高橋さんは「塾の社員さんに話しやすい方がいるので相談してみます」と、来たときよりも少し明るくなった表情で話しました。アルバイト先でハラスメント被害にあっても、訴えるのはハードルが高いと受け流してしまったり、一人で抱え込んでしまったりすると、事態はさらに悪化してしまうことがあります。ハラスメントは個人の問題ではなく、会社の問題です。相手にはっきりと意思を伝えたり、会社の相談窓口や信頼できる上司に相談したりしましょう。その行動は、同じように悩んでいる方を救うことにもつながるかもしれません。相談室を後にする高橋さんを見送りながらキムラさんはそう思いました。