大学4年生の高橋諒さんは、暗い顔をして健康管理センターを訪れました。希望していた就職先の内定が出て安堵したのもつかの間、この会社に就職することを父が猛反対しているというのです。相談室のキムラさんは高橋さんの話を聞いていきました。
- <賛成してくれると思っていたのに>
- 高橋さんは、インターンシップでかかわったベンチャー企業の新しいことにチャレンジする会社の精神性に強く惹かれ、ここで働きたいと思うようになりました。しかし父は「ぽっと出のベンチャーなんて信用ならない。名の知れた大企業に勤めて安定した暮らしをしてほしい」と、頭ごなしに否定してくるのだそうです。
高橋さんは長年同じ会社に堅実に勤め、家族を養ってきた父を尊敬しています。今までは父の意見を参考にしながらやってきました。しかし、今回ばかりは一方的に父の意見を押し付けられ納得できないと言います。「父がこんなに頑固だとは思いませんでした」高橋さんは唇をかみしめました。
- <親の気持ち、子の気持ち>
- キムラさんは、お父さんに考えがあるように高橋さんにも考えがあること、そして実際に働くのは高橋さんであることを話しました。名も知らないベンチャーということで、仕事の内容さえ聞いてもらえないと聞き、キムラさんは言いました。「では、まず話を聞いてもらうことからですね。人はよく知らないために不安が大きくなることがあります。力になってくれる家族にも協力してもらい、あなたの思うこの会社の魅力、あなたがどのようにこの会社で社会人としてやっていきたいのかを、お父さんにプレゼンしてみるのはどうですか」高橋さんは目を丸くして「プレゼン…。そうか。いいかもしれませんね」と言いました。
「お父さんが守ってきた子どもであるあなたが、自分の考えで自分の足で人生を歩んでいく、親離れ子離れの時期にきているのでしょうね。意見の違う相手に自分の考えを伝えることは、今後の高橋さんにとっても意義のあることだと思いますよ」というキムラさんの言葉に、高橋さんは強くうなずきました。
今、優れた人材の内定をとるために企業は必死です。オヤカク(企業が親に内定の確認をする)、オヤオリ(親に企業のオリエンテーションをする)などの言葉も生まれています。人生経験の長い親の意見はもちろん参考になるでしょう。親からすれば心配はつきませんが、子どもの選択と自立を見守ることも愛情です。キムラさんは高橋さんが納得のいく選択ができることを願いつつ、彼の背中を見送りました。