小泉湊斗さんは理工学部の3年生。大学院への進学を希望しています。内部からの進学は難しくはないものの、毎年一定数の学生は学内選考試験で不合格になるという話を小耳に挟んで以来、不安が頭から離れなくなりました。ゼミの教授の研究室に毎日のように通っては、進学への不安を吐露する様子を心配した教授に健康管理センターの相談室を紹介されたのです。小泉さんは相談室のキムラさんに「学内選考試験のことを考えると不安が止まらなくて。最近、緊張からか、背中がこわばって痛いんです」と訴えました。
- <しっくりこないのも大切な気づき>
- そんな小泉さんに、キムラさんは心身ともにリラックスして不安を軽減できる方法としてタッピングを提案しました。タッピングとは、肩や背中を左右交互に軽くタッチすることで心と体の疲れが取れる癒しの手法です。指圧のツボをゆったりとやさしく触れていくことで、不安や緊張、ストレス、痛みなどがやわらぐ効果があります。相談室で実践したところ、自宅でもやってみるということで、一週間後に感想を聞かせてもらうことになりました。
翌週、再び相談室を訪れた小泉さんは、自宅でやってみたがどうもしっくりこない感覚があったことを報告しました。キムラさんは「正直に話してくれてありがとう。しっくりこないということも大切な気づきですからね」と、どのようなところがしっくりこないと感じたのか尋ねました。すると、小泉さんは昔から触覚にとても敏感であるということがわかりました。そのため、肌に触れる行為そのものが負担になっている可能性が考えられました。
- <いつでもできる身近なセルフケア>
- キムラさんは、タッピングと同じくいつでもできる身近なセルフケアとして、マインドフルネス瞑想を提案しました。マインドフルネスは「今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること」と定義されています。マインドフルネス瞑想を行う際のポイントは、呼吸に注意を向け、その中でほかのことに心を奪われたらもう一度呼吸に注意を戻すことです。相談室で実践してみると、小泉さんは自分の思いや感じ方を、非常に落ち着いた状態で眺めることができるような感覚がありました。
「体に触れるよりも、呼吸に意識を向ける方が合っている気がします」そう告げると、キムラさんは「人それぞれ、自分に合った方法がありますからね」と優しく返しました。そして、5分でもよいので毎日続けることが大切であると伝えました。小泉さんは納得したように「これなら続けられそうです」と言い、来週も面談の約束をして相談室を後にしました。