健康で安全な大学生活を

2020年4月のコラム

ビタミンC不足で心身の健康を維持できますか?
ウイルスと闘えますか?

大阪大学名誉教授
(前大阪大学保健センター教授) 
杉田 義郎

杉田先生の略歴はこちらより

 前回のコラムから間が空いてしまいました。今回は、前回(第19回)のコラムで少しだけ触れた、ビタミンC(アスコルビン酸)についてより詳しくお話したいと思います。後で述べるように、現在、新型コロナウィルス感染症の様子が毎日報道されていますが、その対策に関しても重要なビタミンですので必見(読)です。

 そもそも、ビタミンとは「体内で生成されず、何らかのかたちで外界から得なければならない、健康維持に必要不可欠な炭水化物・タンパク質・脂質以外の有機化合物の栄養素」と定義されています。しかも、ビタミンDとは違って、ビタミンCは、ヒトにとって、正真正銘、外界から取り込まないといけない栄養素です。

 ビタミンCを体内で作れない動物は、実はヒト、霊長類の一部(チンパンジー、ゴリラ、オランウータンなど)、モルモット、コウモリの一部など、ごくわずかです。つまり、進化のイタズラで、ヒトを含む一部の動物はブドウ糖からビタミンCを生成する過程に必要な酵素を作るように指令する遺伝子を欠損してしまいました。ただし、幸いなことにそれらの特殊な動物はビタミンCを多く含む果実や植物(葉や茎など)をおもな食料としていたので、ビタミンC欠乏症を起こさずに生存しつづけることができました。ちなみに霊長類の祖先は、数千万年前にこの遺伝子を失ったと推定されています。

 さて、読者の中でビタミンC欠乏症が起こす「壊血病」という病気を知っている方はおられるでしょうか? さらに「壊血病」と診断された患者さんに会われたことがありますか? おそらく前者の問いに「はい」と答える方はおられると思いますが、後者の問いに「はい」と答える方はまずいないと思います。半世紀、医療に関わってきている私でさえ、一度も「壊血病」と診断された患者さんには遭遇していません。友人の内科医にも聞いて見ましたが同様でした。

 歴史的に、フェルディナンド・マゼランやバスコ=ダ=ガマの活躍で知られる「大航海時代(15世紀中ごろから17世紀中ごろ)」には、船員の健康上の重大な脅威となったのが「壊血病」です。一説にはその時代に200万人の船員の命が「壊血病」で奪われたと言われています。当時になると造船技術の発達によって大型木造船の製造が可能となり、それまでの陸地伝いの航海から、海を長い期間航行することになりました。そのために新鮮な野菜や果物を全く摂らない生活を長期間続け、保存食を食料とした結果、極度のビタミンC欠乏に陥り、船員が「壊血病」でばたばたと倒れていったのです。しかし、その真相がビタミンCという栄養素の欠乏症であると科学的に明らかにされたのは20世紀に入ってからでした。

 さて、「壊血病」は、なぜそのような恐ろしい病的な状態に陥るのでしょうか。「壊血病」の初期によく見られる症状は、皮膚の乾燥、脱力感、うつ状態です。さらに病状が進行すると、大腿部(太もも)に大きなあざができるようになり、毛穴の周囲から点状の出血が多くみられます。さらに症状が進むと、歯ぐき、消化管、粘膜から出血がみられます。つまり、生体を維持するためのさまざまな機能をビタミンCは有していますが、その中でも成熟型のコラーゲンの生成機能をビタミンC欠乏によって失うことで血管の壁が脆弱(ぜいじゃく)となって体のあちこちで出血(失血)が生じ、生命に関わるのです。コラーゲンというと美肌を連想される読者が多いかも知れませんが、皮膚、血管のみならず体中のしなやかで丈夫な構造(骨、軟骨、靱帯など)や細胞同士の接着にも必須の物質です。

 ビタミンC欠乏症は決して過去の病気ではありません。ある研究報告で調査対象の大学生の約半数に血液中のビタミンC濃度の低値=潜在性(軽度の)「壊血病」が確認されています。ビタミンCは非常に身近な栄養素ですが、私たちの体の中にどの位ビタミンCが存在しているかを誰も知りません。ビタミンCは血液中の濃度を1とすると、白血球、リンパ球、眼、副腎、脳下垂体および脳内の濃度は20以上です。つまり、それらの細胞内や組織内ではビタミンCが高濃度でないと困る事情があるからです。白血球(好中球)は細菌を取り込んでは殺菌し、白血球(リンパ球)は活性化してウイルスの増殖を抑制し、合成したグロブリン(タンパク質の一種)はウィルスの抗体を作るのに利用されます。眼球内の活性酸素の発生を減らして白内障を予防・改善させます。副腎では抗ストレスホルモン(アドレナリン、ノルアドレナリン、コルチゾール)の生成など、これら全ての過程にビタミンCが不可欠な物質として関わっているのです。

 今回のコラムを書き始めた頃から、新型コロナウィルス感染の問題が大きな話題となり始めました。そして、あっという間に集団感染が起こり、東アジアから世界的流行に至っています。この間に新型コロナウィルス感染の特徴が次第に明らかになっていますが、高齢者や重篤な合併症者には重篤化リスクが高いことが指摘される一方、若年者にも感染が急速に拡がっています。感染リスクを小さくすることとともに、睡眠時間をしっかりと確保するとともに規則的な生活とビタミンCをはじめビタミン、ミネラルを多く含む栄養豊かな食事をきっちりと摂ることが免疫力を確保し、ウイルス感染の重症化リスクを低下させるといっても過言ではありません。ただでさえストレスの多いこの時期に体内にビタミンC不足を生じさせることは、様々な心身の不調の悪化要因になりえます。ビタミンCを多く含む野菜や果物(柑橘類、リンゴなど)を多く摂ることを極力心がけるとともに、サプリメントでも良いのでしっかりとビタミンC(アスコルビン酸)をとることを強くお勧めします。

 次回のテーマは、「続編:コロナウイルス感染・重症化への最強の防波堤は、健全な生活習慣!」です。

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略歴

1973年 7月
大阪大学医学部附属病院神経科精神科 医員(研修医)
1976年 7月
大阪大学医学部附属病院神経科精神科 医員
1978年 11月
大阪大学医学部精神医学教室 助手
1996年 11月
大阪大学健康体育部 教授
1997年 9月
大阪大学健康体育部保健センター長(兼任)
2004年 4月
大阪大学保健センター長(併任)
2005年 4月
大阪大学保健センター 教授
2006年 4月
大阪大学医学部附属病院睡眠医療センター 副センター長(兼任)
2013年 4月
大阪大学 名誉教授
2013年 5月
大阪大学学生支援ステーション特任教授(非常勤)
2013年 6月
大阪大学キャンパスライフ支援センター特任教授(非常勤)
2013年 10月
学校法人関西学院保健館 学校医・産業医(嘱託常勤)
2014年 4月
大阪大学キャンパスライフ支援センター招聘教授(非常勤)
2017年 4月
学校法人関西学院保健館 学校医・産業医(非常勤)

資格

1973年 6月
医師免許証取得(第219558号)
1988年 4月
精神保健指定医(第7831号)
1955年 5月
医学博士(大阪大学)
2004年 1月
日本医師会認定産業医

所属学会

日本睡眠学会、日本スポーツ精神医学会(評議員)、日本時間生物学会、日本臨床神経生理学会、日本精神神経学会、日本脂質栄養学会、全国大学メンタルヘルス学会

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